コラム

リーマンショック以降で最大の転換点を迎えた中国経済 2つの選択肢から見えるシナリオとは?

2018年10月30日(火)15時40分

写真はイメージ William_Potter-iStock

<今の中国経済は、バブル前の70年代日本に近い状態と言える。バブル経済を発端に中国が、途上国型経済から内需主導の先進国型経済への脱皮を図った場合、日本企業に大きな影響が及ぶ......>

2018年7~9月期のGDP成長率が予想を下回ったことで、中国経済に減速懸念が生じている。中国は外需やインフラ投資を主軸とする途上国型経済から、内需中心の成熟経済へとシフトしつつあるが、こうした中で発生したのが米中貿易戦争である。一連の事態にどう対処するのかで、中国経済の先行きは大きく変わりそうだ。

輸出と消費は好調だが、インフラ投資が大幅減

中国国家統計局が発表した2018年7~9月期のGDP(国内総生産)成長率は、物価の影響を除いた実質で前年同期比6.5%と市場予想を下回った。4~6月期の成長率は6.7%だったので0.2ポイント縮小したことになる。中国経済はすでに6%台に成長率が低下しているが、ここまで成長率が下がったのはリーマンショック以来である。

中国のGDP統計は、日本や米国などと異なり、生産面からの推計が中心となっており、業界ごとの成長率で分析を行うケースが多い。

鈍化が目立ったのは建設業で、政府主導のインフラ建設が停滞したことが大きく影響している。一方、製造業は6%、ITは32.8%と高い成長が継続しているので、世界の工場という立場は変わっていない。中国税関総署が発表した9月の貿易統計は輸出(ドルベース)が前年同月比14.5%と大幅な伸びを示しており、対米貿易黒字は過去最高を記録した。個人消費との関係が深い卸売業や小売業も6.2%の伸びなので内需も堅調さを維持している。

こうした状況について、日本でもおなじみの支出面から見たGDPに置き換えて説明すれば「個人消費は堅調に推移し、輸出も増加しているが、公共事業の伸びの鈍化が全体の足を引っ張っている」といったところになるだろう。不動産投資にもわずかだが鈍化傾向が見られる。

中国の経済統計については、一部から不透明性が指摘されているが、貿易統計については相手国の統計が存在しているので、基本的にウソをつくことはできない。中国企業の業績や米国、日本の貿易統計などを総合的に考えると、輸出が好調なのはほぼ間違いない。

中国政府は現在、地方政府の債務削減など財政のスリム化を進めているので、公共事業は大幅に減っている可能性が高い。一方、来日する中国人観光客の動向などから個人消費は堅調に推移していることが推察できる。したがって、消費と輸出は堅調だがインフラ投資で鈍化が目立つという先ほどの見立ては、中国経済の現状をおおよそ言い表していると思ってよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story