コラム

Facebookの仮想通貨リブラに、各国の通貨当局はなぜ異様なまでの拒絶反応を示しているのか?

2019年08月14日(水)16時55分

量的緩和策を実施するにあたって、誰を日銀総裁にするのかというのは、極めて重要な政治課題だったが、その理由は日銀が金融市場を支配する絶大な権力を握っているからである。もし仮想通貨が普及すれば、日銀総裁はもちろん、日銀官僚の社会的地位は大きく低下することになるだろう。

これに加えて、中央銀行の市場支配力が低下すれば、政府が中央銀行を通じて金融政策を実施しても、十分な効果が得られなくなる。結果として政府も市場から軽んじられる可能性が高い。各国の通貨当局や政府首脳が本当に懸念しているのはこうした事態であり、リブラにはこれが実現しそうなポテンシャルがあるため、過剰なまでの反応を示しているというのが現実だ。

金融システムをどこまで政府が管理すべきなのかというのは、長い間、ずっと論争となってきたテーマであり、政治から独立した中央銀行が「非民主的」に通貨を管理するという仕組みは、紆余曲折を経て人類が編み出した知恵のひとつといってよい。
 
通貨制度の運営に完全に民意を反映させれば、ポピュリズム政権の誕生などをきっかけに、あっという間にインフレになるリスクがある。一方、中央銀行を聖域化すれば、一種の特権となり、独善的な制度運営が行われてしまう。

どの制度がよいのか最終的に決定するのは国民だが、リブラという国家を超える通貨発行主体の登場は、こうした議論のよいたたき台になると筆者は考えている。感情的になって仮想通貨を批判するのではなく、本来、通貨制度とはどうあるべきなのか、これをきっかけに建設的に議論していくことが重要だろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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