コラム

先進国に共通する人手不足に、IT化ではなく「奴隷労働」で対処した日本

2022年08月31日(水)19時07分
外国人労働者(イメージ)

ILLUSTRATION BY ELENABS/ISTOCK

<外国人「技能実習制度」の見直しは人権問題を改善させるだけでなく、結果的に日本人労働者の賃金アップにもつながる>

日本政府が外国人技能実習制度の見直しに乗り出した。この問題は放置しておけば日本が人権弾圧国家に認定されるリスクをはらんでおり、事態は極めて深刻だった。遅すぎたとはいえ、見直しに着手したことは朗報であり、日本人の賃金上昇にも効果を発揮しそうだ。

古川禎久法相は2022年7月29日、閣議後の記者会見で、外国人技能実習制度の本格的な見直しに着手する考えを示した。この制度は、新興国の外国人を対象に、日本企業で働きながら専門的な技術や知識を習得するというものだが、現実には安い賃金で外国人労働者を雇用する仕組みとして機能している。

そればかりか、一部の事業者は、賃金の未払いや過重労働、劣悪な宿舎など、重大な人権侵害を行っており、現代の奴隷労働として、国際社会でもたびたび問題視されてきた。

G7に名を連ねる先進国でありながら、外国人を対象に事実上の奴隷労働を行っているというのは、あってはならない事態である。民間の事業者が勝手に実施したものなら、あくまで個別企業の行為で済ませられるが、政府の事業ということになると、そうした言い訳は通用しない。

下手をすると中国におけるウイグル問題と同一視されかねない問題であり、早急な改善が必要だった。政府は年内にも有識者会議を設け、具体的な制度改正に向けて議論を進める方針だ。

この制度の見直しが行われれば、人権問題を指摘されるという最悪の事態を回避できると同時に、日本人の賃金にも大きな効果を発揮する可能性が高い。

人手不足への最悪の対応が生んだ結果

人手不足は先進国共通の課題であり、諸外国は人手不足に対し、ITを活用した業務の効率化・自動化で問題解決を図ってきた。ところが日本の産業界はテクノロジーで状況を乗り越えようとせず、安い賃金で外国人労働者を働かせるという最悪の方法で対処した。この結果、日本の労働生産性は欧米各国の半分から3分の1と極めて低い水準にとどまっている。

労働基準法に違反するような働かせ方というのは、外国人のみならず、ブラック企業に代表されるように日本人に対しても行われている。半ば違法な労働が横行した結果、国内の賃金は上昇せず、結果として日本人の生活水準は低下の一途をたどっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア軍の上陸艇を撃破...夜間攻撃の一部始終

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story