コラム

ついに日本が物価指数でアメリカを逆転...本格化したインフレを、退治できない日本の危険な未来

2023年08月02日(水)19時09分
日本のインフレ(イメージ)

DESIGNRAGE/SHUTTERSTOCK

<日米の物価上昇率が逆転するという「異常事態」。日銀に打てる手は限られており、国民生活がますます追い詰められる可能性も>

アメリカと日本の物価上昇率が逆転するという、近年では考えられない事態となった。日本のインフレが本格化してきたということであり、日銀の金融政策はまさに岐路に立たされている。

これまでの時代は、アメリカはインフレ傾向が強く、日本はデフレ傾向が強いというのが一般常識であった。日銀が行ってきた大規模緩和策はまさに異次元であり、相対的な規模でアメリカをはるかに上回っていたが、それが許容されてきたのは「デフレ脱却」というお題目があったからである。

アメリカでは当初のもくろみどおりインフレが進み、むしろ悪影響が大きくなってきたことから、政策当局は金利を引き上げ、あふれた貨幣を回収する正常化モードに入った。一方、日本は緩和策を継続しており、その結果、国内でも本格的なインフレが始まろうとしている。

2023年6月の消費者物価指数(総合値)は、アメリカが前年同月比で3.0%だったのに対して、日本は3.3%となり、とうとう日米の物価上昇率が逆転した。本来、金融政策というのは物価の安定を目指して行うものであり、物価と金利については、タイミングのズレは生じるものの、最終的に連動させなければならない。

日本の金利上昇と円高への転換はあるか?

教科書的な理解に従えば、アメリカは物価上昇率が鈍化しているので、今後は利上げペースを落とすか、場合によっては利下げを行う選択肢が見えてくる。一方の日本は、物価上昇率がアメリカよりも高くなっているので、基本的には金利を引き上げ、金融を引き締めるという流れになる。

アメリカの金利が下がり、日本の金利が上がれば、それは円高要因であり、過度な円安を抑制する一つの材料となり得るだろう。では今後、日本の金利が上昇し、それに伴って円高に戻るのかというとそうはいかないかもしれない。日銀は金利を引き上げたいところだが、日本国内にはそれを許さない諸事情が存在しているからである。

日本経済は20年間、低金利にどっぷりとつかった状態であり、ここで金利を上げると企業の倒産や住宅ローン破産が増加するリスクがある。加えて日本政府は1000兆円を超える債務を抱えており、金利の上昇は利払い費の急増を招く。ただでさえ景気が悪く、賃金の伸び悩みで政府に対する風当たりが強まるなか、状況をさらに悪化させる決断はしにくいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バランスシート圧縮減速、市場のストレスを軽減=米N

ビジネス

世界最大級のCO2回収・貯留施設稼働、アイスランド

ビジネス

中国杭州市、住宅規制を撤廃 ハイテク企業の人材増で

ビジネス

米GM、「シボレー・マリブ」生産終了へ EVに注力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story