コラム

鬱憤社会、韓国:なぜ多くの韓国人、特に若者は鬱憤を感じることになったのか?

2019年11月11日(月)17時50分

文在寅の側近だったチョ・グク前法相の不正疑惑は新たな鬱憤の種になった Kim Hong-Ji/File Photo- REUTERS

<「機会は平等であり、過程は公正であり、結果は正義に見合う社会」を約束した文在寅大統領にも失望し、韓国の若者は鬱憤がたまる一方>

10人に4人が鬱憤状態

最近、韓国では「鬱憤(embitterment)」に関連した調査結果が公表され、社会の注目を集めている。日本国語大辞典では鬱憤を「内にこもりつもった怒りや不満、晴れないうらみ、不平、不満の気持ちが心にこもってつもる」状態、また新明解国語辞典では、「長い間抑えてきて、がまんしきれなくなった」状態、として説明している。

一方、スイスの心理学者ズノイは鬱憤は怒りや悲しみのような基本感情として分類されず、「くやしさ、むなしさ、怒り」などが混合された複合的な感情であることから今まで看過されてきた感情(forgotten emotion)であると主張している(ユミョンスン「鬱憤について」ソウル大ジャーナル、2019年6月11日から引用)。また、ドイツのシャリテ大学のミハエル・リンデン教授や研究チームは、鬱憤を「外部から攻撃されて怒りの感情ができ、リベンジしたい気持ちになるものの、反撃する力がないため、無気力になり、何かが変わるという希望も無くなった状態に屈辱感まで感じる感情」であると定義している。

つまり、このような定義から、鬱憤は社会が公正であり、平等であると考えていたのに、実際はそうでない時に現れる感情であり、自分はその社会に対して何もできない時に起きることがうかがえる。

ソウル大学の研究チームは、ドイツのシャリテ大学のミハエル・リンデン教授やその研究チームが開発した「鬱憤測定調査票」を用いて、韓国人の鬱憤状態を測定した。「鬱憤測定調査票」は、最近1年間に「心を傷つけられ、かなり大きな鬱憤を感じたことがあったのか」、「思い出すたびに、非常に腹が立つ出来事があったのか」、「相手にリベンジしたいと思わせる出来事があったか」などの19の調査項目に対して本人の状況を0から4までの選択肢の中から回答させ、鬱憤の状態をチェックするようにしている。

調査では、19項目に対する平均点数が2.5点以上であると、「重度の鬱憤状態」、1.6〜2.5点の間であると「継続的な鬱憤状態」として判断する(0:全くなかった、1:ほとんどなかった、2:少しあった、3:多くあった、4:非常に多くあった)。

1人世帯の2割が重度の鬱憤かかえる

今回の調査結果によると、回答者のうち、慢性的に鬱憤を感じている人の割合は43.5%(重度の鬱憤状態10.7%、継続的な鬱憤状態32.8%)を占めていることが明らかになった。鬱憤状態が深刻な水準である人の割合はドイツの調査結果(2.5%)の4倍を超えている。

問題は、若い人ほど鬱憤状態にある人が多いことである。「鬱憤状態が深刻な水準である人」の割合は20代が13.97%で最も高く、次いで30代(12.83%)、40代(8.70%)、50代(7.63%)、60代(7.27%)の順であった。また、世帯人員が少ないほど鬱憤状態にある人が多く、1人世帯における「重度の鬱憤状態」である人の割合は21.56%に達した。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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