コラム

「認知症税」導入で躓いた英首相メイ 支持率5ポイント差まで迫った労働党はハード・ブレグジットを食い止められるか

2017年05月31日(水)16時00分

富の再分配を訴えて支持を伸ばす最大野党・労働党のコービン党首 Stefan Rousseau-REUTERS

<英総選挙を1週間後に控え、与野党の勢力図に波乱が起きている。ブレグジットを率いて高い支持率を維持してきたメイ首相の保守党が、マニフェストに格差解消を掲げる労働党の猛追を受けている。イギリスは大丈夫か>

イギリスの総選挙(投票日は6月8日)を前に首相テリーザ・メイと最大野党・労働党党首ジェレミー・コービンのTV討論が5月29日、行われた。メイが直接対決を嫌がったため、2人が別々にスタジオの有権者と超辛口で知られるプレゼンターの質問に答える形で討論が進められた。

討論が行われた24時間ニュース放送局「スカイニュース」のスピンルーム(出演した政治家やコメンテーターから自由に取材できる場所)が報道陣に解放されたので、筆者も参加した。コービンはテロを肯定するような過去の言動と核廃絶など極端な政策について追及を受けたが、予想以上に善戦した。一方、メイは欧州連合(EU)離脱で底堅い支持を得たものの、他の論点では明確な数字は一切挙げず、答えを避けているように見えた。

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TVのインタビューに応じるEU離脱担当相デービス(中央) Masato Kimura

テレビ討論は、接戦

メイ政権の重要閣僚、EU離脱担当相デービッド・デービスや内相アンバー・ラッドも顔を見せたが、TV出演が終わるとアッと言う間に姿を消し、ぶら下がるスキもなかった。保守党のメディア・コントロールはメイ政権になって以前より強化された。総選挙最大の山場であるTV討論をどう見たか。著名な政治コラムニストや元労働党特別顧問に採点してもらった(10点満点)。

■左派系大衆紙デーリー・ミラーの政治コラムニスト、ケヴィン・マグワイア

メイ7~7.5、コービン8~8.5

「今日のTV討論の勝者は明らかにコービンだが、遅すぎた。次の首相はやはりメイだろう」

■保守系大衆紙デーリー・メールのコンサルタント・エディター、アンドリュー・ピアース

メイ7.5、コービン6.5

「超辛口プレゼンター、ジェレミー・パックスマンがコービンに武装組織IRA(アイルランド共和軍)とのつながりや『フォークランド紛争は保守党が作ったプロット』という過去の発言を追及した時、有権者はコービンを恐ろしく思ったはずだ。一方、メイは断固としてブレグジット(イギリスのEU離脱)を実行するという強い決意やテロ対策の手堅さで有権者の支持を固めた」

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イザベル・オークショット  Masato Kimura

■前首相デービッド・キャメロンの伝記『コール・ミー・デイブ』の共著者で元高級日曜紙サンデー・タイムズ政治部長、イザベル・オークショット

メイ7.5、コービン7.5

「長年コービンを見てきたが、全く期待に値しない政治家だった。今日は流暢で、プロフェッショナルに徹し、スタジオの有権者を説得するように語りかけ、良い出来だった。しかし首相の資質が備わっているかと言えばノーで、最終的に勝つのはメイだ」

■元労働党特別顧問、アイシャ・ハザリカ

「コービンのパフォーマンスは非常に良かった。メイはブレグジットに関してはっきりした態度を示したが、医療や教育、介護などその他の大切な政策について有権者の質問にストレートに答えられなかった」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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