コラム

ブレグジット反対に舵を切った労働党コービンに勝算あり?

2019年12月11日(水)20時10分

町中では、有権者の怒りが渦巻いていた。「3年前の国民投票でボルソーバーの70%が離脱に投票した。保守党は離脱を進めているのに労働党はわれわれを裏切った」と年配男性は言葉をたたきつけた。

40年前からボルソーバーで暮らすアンガス・マギー(65)もこう吐き捨てた。「2015年の総選挙で労働党が惨敗したのは、有権者の痛みに耳を貸さなかったからだ。期待したコービンも、働いてもフードバンクで食料をもらわなければ暮らせない労働者の怒りを分かろうとしなかった」

労働党は北から崩壊する。これがマギーの語る「法則」だ。強硬離脱の賭けに出たジョンソンはホクホクだが、保守党圧勝を決して楽観できないのも英国政治の難しさだ。

労働党との差別化を図るため残留を強く訴える自由民主党が伸び悩んでいる。自由民主党に見切りを付けた残留派が保守党の単独過半数を阻止するため徐々に労働党にスイングし始めている。皮肉にも「コービン首相」の可能性が限りなくゼロに近いからだ。

戦術的投票で「ハング・パーラメント(宙ぶらりんの議会)」に持ち込み、ブレグジットの引き延ばしを図るのが残留派の起死回生策だ。保守党のリードが7ポイントを下回れば、単独過半数に黄信号がともる。このシナリオは決して不可能ではない。一見すると無謀でしかないコービンの選挙戦略にも、したたかな計算が隠されている。

<2019年12月17日号掲載>

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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