コラム

「コロナ後」メルケルはどう動く EUは更なる分裂を回避できるか

2020年05月25日(月)12時20分

このコロナ危機で、先送りになっていることの一つに、CDU(キリスト教民主同盟)の党首選びがあります。2月に地方選の責任を取って辞意を表明したアンネグレート・クランプカレンバウアー氏に代わる党首を、4月25日にベルリンで特別党大会を開催して決めるはずでした。

しかし、それどころではなくなってしまい、先送りになっているうちに、メルケル人気が急上昇してきましたので、このまま有力後継者が現れなければ、メルケル続投論が出てくる可能性は否定できないと思います。

しかし、一旦はっきり辞めると明言していますし、来年秋まで首相を務めれば、戦後最長のヘルムート・コール首相(故人)にほぼ並びますので、もう十分なのではないでしょうか。多少惜しまれるうちに引退するのが花だと思います。

来年、次の首相候補は

木村:コロナでドイツ政治の右旋回は止まったのでしょうか。新興極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」やCDUの姉妹政党であるCSU(キリスト教社会同盟)の動向はどうなっているのでしょう。

岩間:最近の世論調査で、久しぶりにCDU/CSUの支持率が40%台に届きました。今のところ、コロナ危機へのメルケルの対応が高く評価されて、CDU/CSUの一人勝ち状態で、AfDの支持率は落ちています。しかし、経済への影響が明白になってくるのはこれからです。街に失業者があふれるような状況になれば、世論は豹変するかもしれません。

今のところコロナの矛先はドイツでも中国に向かっています。しかし、難民収容施設などで、コロナのクラスターが発生したところもあり、批判の矛先が「外国人」全般に向かい、排外主義が強くなると、AfDの支持率が上がってくる可能性もあると思います。

今回の危機で株を上げたのは、CSUのマルクス・ゼーダー党首(バイエルン州知事)です。バイエルンの土地柄もあり、CSUはドイツの保守の中でも最右派に属します。難民危機以来、AfDに流れてしまった保守の選挙民を取り戻そうと、外国人政策などで努力してきましたが、うまく行きませんでした。

しかし、ここに来て、コロナ危機でのゼーダーの素早い対応が評価され、人気が上がっています。バイエルンはドイツ諸州の中で最南端であり、人の出入りも多いため、患者数が相対的に多くなっており、これに対して厳しい措置を取りました。保健衛生政策では、ドイツは州知事に大きな権限があるので、この危機からどの知事が最も高い評価を得て抜け出せるかは、来年の首相候補が誰になるかに大きな影響を与えると思います。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダの原油パイプライン拡張完了、本格輸送開始

ビジネス

豪NAB、10─3月キャッシュ利益13%減 自社株

ワールド

ウクライナ、今冬のガス貯蔵量60%引き上げへ

ワールド

ソロモン諸島、新首相に与党マネレ外相 親中路線踏襲
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story