コラム

画期的なCOP26合意、延長戦の舞台裏

2021年11月14日(日)20時20分

脱石炭・化石燃料について「CO2排出削減措置(アベイトメント措置)が講じられていない石炭火力発電や非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止(phase-out)に向けた取り組みを加速させる」とし、産業構造の転換による失業など新たな社会問題を生じることなく、社会全体の持続可能性の向上に寄与する「公正な移行への支援の必要性を認識する」と表明した。

気候変動対策資金として「先進国に対し、途上国に対する『適応(気候変動の影響を軽減すること)』のための資金提供を25年までに19年比で少なくとも倍増するよう」求めた。さらに気候変動によって途上国が被る損失と損害について成果文書の冒頭に初めて書き込んだ。

kimura20211114173703.jpg
フォトグラファーに文書を示すシャルマ議長(同)

シャルマ議長はフォトグラファーにわざと文書を示し、写真を撮らせる余裕を見せた。しかしシャルマを待ち受けていたのは大どんでん返しだった。シャルマ議長は途上国を支援する資金を積み上げたので、パリ協定6条(市場メカニズム)のルールブック作りもすんなりまとまると読んでいたのだろう。

「20年代の温暖化対策強化に関する米中グラスゴー共同宣言」でも米中両国は6条のルールブック作りに協力して取り組むと誓っていた。地ならしはすべて終わっていたはずだった。

本会議場を動き回ったケリー

シャルマ議長が「あと1分で会議を始めるので着席をお願いします」と呼びかけた。しかし米気候変動対策大統領特使のジョン・ケリー元国務長官が、欧州委員会のフランス・ティーマーマンス執行副委員長(気候変動担当)、中国の解振華・気候変動事務特使、シャルマ議長らの間を忙しなく行き来する。

本会議場で取材していた筆者の耳元でパプアニューギニアのPR担当者が「アメリカとイギリスが6条から熱帯雨林を外したことに対してパプアニューギニア政府代表がCOP26から立ち去ると通告した。それでケリー氏が同国政府代表の説得を試みている」と囁やいた。しかし、もっと大きな障害が合意の前に立ちはだかっていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎

ワールド

英裁判所、アサンジ被告の不服申し立て認める 米への

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story