コラム

死者700万人、コロナ緊急事態終了...「本当の終息は、次のパンデミックが始まった時」の意味

2023年05月06日(土)15時01分

ジカ熱では流行を制御できる態勢がWHOに整ったとして、ヘイマン氏の勧告に基づき、緊急事態は10カ月弱で終了した。ヘイマン氏はコロナについて今年1月「私が委員長を務めた緊急委員会の基準によれば緊急事態を継続する理由は見当たらない」とメディアに語り、筆者にも「WHOは最終的に緊急事態宣言を終わらせるだろう」との見通しを示していた。

中国は昨年12月ゼロコロナ政策を転換。英医療系調査会社エアフィニティは今年2月、中国における1日当たりのコロナ新規感染者275万人、死者2万7000人、12月以降の累積感染者1億8100万人、死者130万人との推計を発表していた。テドロス事務局長に中国のゼロコロナ撤廃による感染爆発が収まるのを待つ政治的配慮が働いたとしても不思議ではない。

「集団免疫は遅かれ早かれパンデミック期を終わらせる」

英エジンバラ大学のマーク・ウールハウス教授(感染症疫学)は「緊急事態の終了は新型コロナウイルスと人類の関係における新しい段階の始まりとなる。公衆衛生問題としてのコロナの終了ではなく、 感染、重症化、死亡の大きな波がなくなったということに過ぎない。年初に中国で発生した感染爆発が最後となることを願っている」と語る。

「コロナの疫学的変化はワクチン接種率とウイルスへの自然曝露の組み合わせにより集団免疫が構築された結果だ。集団免疫は遅かれ早かれパンデミック期を終わらせる方法だった。人類は常にウイルスと共存していかなければならない宿命を背負わされている。 当初、多くの人がこれを受け入れようとはしなかったものの、20年初頭から疫学者には分かっていた」

コロナウイルスは依然として変異し続けており、部分的に既存の免疫を回避できる新しい変異株を生み出している。感染レベルは高止まりし、一部の変異株は今も新しい波を生み出している。しかし以前ほど爆発的ではなくなっている。症例のモニタリングやウイルスゲノムの解析を継続的に行い、警戒を怠らないようにしなければならない。

ワクチン接種を行ったとしても、高齢者や既往症を持つ人にとってコロナは脅威であり続ける。ウールハウス氏は「優れた患者ケアと効果的な治療が引き続き必要とされる。特に高齢者、虚弱な人、既往症のある人など、最も弱い立場にある人々を対象としたワクチン接種プログラムの役割も継続されるだろう」と指摘する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「英国を再建」、野党・労働党が選挙公約 不法移民対

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ワールド

ニューカレドニアに治安部隊増派、仏政府が暴動鎮圧急

ビジネス

訂正-中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story