コラム

ダイアナ追悼イベントに、自身のプロジェクトをぶつけたメーガン夫人...英王子兄弟の「対立」は修復不能

2024年03月15日(金)17時05分

過去の社会階層へのノスタルジー

英王室の伝記作家イングリッド・スワード氏は英大衆紙デーリー・ミラー(3月14日付)に「ダイアナ妃はビデオリンク越しで短時間でも2人が一緒にいることを望んだと思う。ダイアナ妃は兄弟の確執がここまで悪化するのを防ぐために全精力を注いでいただろう」と話している。

わが道を行くメーガン夫人に比べ、1月の腹部手術から公務を離れているキャサリン皇太子妃は子ども3人と一緒に写った家族写真の加工で6つの通信社から一斉に配信を撤回される騒動を引き起こした。自身の健康状態を巡る心無い陰謀論にさらに傷付けられた。

王室に反旗を翻したヘンリー公爵夫妻を散々叩いてきたデーリー・メール紙は「多くの人は皇太子との結婚以来、キャサリン妃は素晴らしい仕事をしてきたので、手術から回復するのに必要なだけの時間をとり、非難する人たちを無視すべきだと言っている」と読者の手紙を紹介した。

しかしリベラルな米紙ニューヨーク・タイムズのゼイネップ・トゥフェクチ氏は3月13日付コラムで「キャサリン妃はメーガン夫人に与えられてきた大打撃に比べ、これまで極端に恭しく扱われてきた。過去の社会階層へのノスタルジーを演出するため2人の関係は脚色された」と指摘する。

メーガン夫人は危険でくだらない新参者

「現代英国で王族は娯楽と気晴らしの役割を担ってきた。キャサリン妃は美しく、気高く、白人の『英国のバラ』。これに対して義理の妹メーガンは危険でくだらない新参者。ダブルスタンダードがまかり通ってきた」とトゥフェクチ氏は厳しい見方を示す。

王室では君主制の維持が最優先事項となり、自分や個人の感情を殺してでも伝統やプロトコルに従わなければならない。その定めがさまざまな悲劇を生み出してきた。一方、自分を生きる軸に据えるメーガン夫人には王族の一員として生きることは最初から無理だった。

キャサリン妃には良き妻、良き母としての生き方しか認められていない。それが多くの保守的な英国人女性を慰める。これに対して自分のアイデアで妻として母としてキャリアウーマンとしてたくましく生きる非白人のメーガン夫人は保守的な英国人女性には目障りな存在に映る。

家族写真の加工で落ち込むキャサリン妃と、叩かれて強くなるメーガン夫人。どちらの生き方を選ぶかはそれぞれの女性の自由だが、欧州連合(EU)離脱で取り返しがつかない大失敗をしてもまだ自覚のない英国の傲慢さを見ると、答えは自ずとわかろうというものだ。

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ビジネス

中国、リチウム電池生産能力の拡大抑制へ 国際市場の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story