コラム

英国で女性蔑視もヘイトクライムに含める動き  元巡査でさえも「声を上げにくい」現状

2021年03月19日(金)18時03分
ロンドン 帰宅途中で殺されたサラ・エバラードを追悼

サラさんが行方不明となったロンドンのクラパム・コモンの追悼場所に捧げられた花や手紙(3月17日)Dylan Martinez-REUTERS

<女性を同じ人間として見ていないような犯罪は、人種や宗教、性的指向などに基づく犯罪と同じ憎悪犯罪だ、と女性たちは言い始めた>

英イングランド・ウェールズ地方(英国の総人口の約90%が住む)では、今秋から「性・ジェンダーが起因となった犯罪」を記録する試みが始まる。

すでにいくつかの警察署はこれを実行しているが、同地方の全43の警察署で義務化されることを政府閣僚が17日、議会で発表した。

現在、司法改革を目的とする調査委員会「ロー・コミッション」が「ヘイトクライム(憎悪犯罪)関連法」に女性蔑視(ミソジニー)による犯罪を含めるかどうかを調査中で、年内には結論が出る予定だ。

女性蔑視をヘイトクライムにするため運動を続けてきた野党・労働党のステラ・クリーシー議員は、記録義務化の試みを歓迎した。「女性への憎悪による犯罪が記録されると、問題の大きさが把握しやすくなり、犯罪防止に役立つ。女性たちが被害を警察に届け出る際にも、真剣に受け止められるようになるはずだ」。

17日の議会討議は、サラ・エバラードさんが帰宅途中に殺害された事件をきっかけに高まった、女性に対する暴力への抗議運動を背景に行われた。

野党議員らの質問に答える「クエスチョン・タイム」の答弁に立ったジョンソン首相は、英国は「女性の懸念に対処できていない、日常的な性差別の根本的な問題を解決しなければならない」と述べた。

現行の法律では、ヘイトクライムとは人種、宗教、性的志向、障がいあるいはトランスジェンダー(身体的な性別と自認する性別が一致していない人)としてのアイデンティティを起因とする攻撃、嫌がらせ、そのほかの損害を与えたときに行われた犯罪を指す。

元巡査、「自分の身に起きた犯罪は報告しにくい」

女性蔑視を犯罪としてすでに記録している警察署の1つが、イングランド地方東部のノッティンガムシャー警察だ。

導入の中心的人物となったのが、スザンナ・フィッシュ元巡査。フィッシュ氏は30年間警察で勤務後、2017年に退職した。フィッシュ氏は、15日、サラさんへの追悼に集まった人々に対する警察の対応を「女性蔑視的」と呼んだ。

フィッシュ氏がBBCラジオ4の「ウーマンズ・アワー」(17日放送)に出演して語ったところによると、記録導入の際には同署の中で「かなりの抵抗があった」という。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story