コラム

シリアIS占領地消滅でアルカイダは復活するか──3つの不吉な予兆

2019年03月25日(月)11時24分

これに対して、ISの基本方針は、イスラーム国家の樹立にある。「イスラームの教義に基づく社会の建設」というイスラーム過激派の大義からすれば、ISのゴール設定の方がわかりやすい。しかし、アルカイダ首脳はこれを「敵から狙われやすくなる」として認めなかった。この路線の違いから、アルカイダとISはいわばケンカ別れしたのだ。

さらにアルカイダにとって、ISの台頭は大きな損失をもたらした

ISの台頭以前、アルカイダは「国際的イスラーム過激派組織」の本流だった。しかし、ISが注目を集めるにつれ、世界各地のイスラーム過激派の間からISに支持や忠誠を表明する組織が相次ぎ、これによってアルカイダは支持者を失うことになった。支持者を失うことは、戦闘員・協力者のリクルートやイスラーム世界での「献金」で支障をきたすことになる。

そのアルカイダにとって、多くの国から脅威とみなされたISの退潮は、「厄介なライバルを『共通の敵』が葬ってくれた」と映るだろう。

アルカイダにとっての追い風

こうした背景のもと、アルカイダにとって追い風が吹き始めている。そこには、主に以下の3つのポイントがあげられる。

・カリスマ的リーダーの登場

・サウジアラビアの方針転換

・欧米諸国の失点

このうち、まず「カリスマ的リーダーの登場」についてみていこう。

アメリカ国務省は3月2日、「オサマ・ビン・ラディンの息子の一人ハンザ・ビン・ラディンがアルカイダ指導者として足場を固めつつある」との見解を示した。詳しい情報は定かでないものの、報道によると、ハンザは30~35歳とみられ、その妻は9.11テロの実行部隊を率いたモハメド・アタの娘と言われる。

1998年の「グローバル・ジハード宣言」でアメリカに宣戦布告し、最終的に2011年にアメリカ軍に殺害されたビン・ラディンは、イスラーム過激派の世界では、英雄、殉教者と位置づけられる。血統を重視するアラブ人にとって、「ビン・ラディンの息子」というシンボルは、これ以上ないリーダー候補となる。イスラーム過激派の世界でやはり伝説的人物として語られるモハメド・アタの娘と夫婦となれば、その権威はさらに上がる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story