コラム

アメリカがイランを攻撃できない理由──「イラク侵攻」以上の危険性とは

2019年05月15日(水)16時25分

シリア情勢の悪化

第三に、アメリカがイランを攻撃すれば、レバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなど、イランが支援する組織の活動を活発化させかねない。

それだけでなく、アメリカとイランの直接対決は、ようやく終結の目処が立ってきたシリア内戦にも悪影響が及ぶ。

シリア内戦でイラン革命防衛隊はロシア軍などとともに「イスラーム国」(IS)をはじめとする反体制派を攻撃する主力となり、アサド政権を支えてきた。アメリカがイランと衝突すれば、革命防衛隊はシリアを離れるとみられるが、これはシリア情勢を流動化させ、イスラーム過激派が息を吹き返しやすくなる。

原油価格上昇のプラスとマイナス

第四に、原油価格の問題だ。

2016年段階でイランの原油の確認埋蔵量は1584億バレルにのぼり、これは世界第4位だ(BP)。しかし、すでにアメリカによる制裁で国際的な流通は制限されており、このうえ軍事衝突となればイラン産原油は市場から消える。さらに、大産油国が集まるペルシャ湾一帯での危機は原油の価格上昇を加速させかねない。

これはアメリカにとって、悪い話ばかりではない。シェールオイル生産量の増加によって、今やアメリカの原油生産量は日産1235万バレルで世界一だからだ。

ただし、原油価格につれてガソリン価格も上昇すれば、アメリカの国内経済にも悪影響が及ぶ。

現状のアメリカ経済には成長の兆しもある。2018年のGDP成長率は大統領選の公約だった3%に届かなかったが、今年第一四半期のGDP成長率は3.2%に上昇し、4月には失業率が約半世紀ぶりの低水準となる3.6%にまで下落した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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