コラム

テキサス銃撃を「テロ」と認めた米当局──日本も無縁でない「身内のテロ」

2019年08月06日(火)13時02分

テキサスの事件が発生したのとまさに同じ8月3日、あいちトリエンナーレで開催されていた「表現の不自由展・その後」が中止された。「平和の少女像」の展示をめぐり、河村たかし名古屋市長をはじめ各方面から異論が出ただけでなく、数多くの抗議の電話が殺到し、なかには「ガソリン携行缶をもってお邪魔する」といった脅迫まであったことから、中止に追い込まれたのである。

韓国との外交関係が極度に悪化しているタイミングであることから、批判的な意見が出ること自体は不思議ではない。しかし、脅迫という名の暴力があったとなると、これは思想信条の異なる相手を脅すための暴力としてのテロと呼べる

本来、好悪の感情と権利は別次元のもので、仮に「反日相手ならテロや暴力にならない」というなら、2005年に中国各地で反日デモが暴動にまで発展した際、「愛国無罪」を叫んで日本企業のショーウィンドウを叩き割った群衆と変わらない。

ところが、政府や自治体からは、展示を企画した責任者らへの批判は出ても、脅迫者への批判はあまり聞こえてこない。また、常日頃「表現の自由」にやかましいはずの多くのメディアは、嫌韓世論に忖度したのか、熱心に報じようとしない。

もちろん、脅迫と銃乱射では重みが違うにせよ、意見の相違を力で封殺することでは同じのはずだ。ここに「身内のテロ」への甘さがある。

欧米における白人右翼テロの拡大からみてとれるのは、当局や世論が大目に見ている間に「身内のテロ」が増長したことだ。その意味で、愛知県警には脅迫者への断固たる措置が求められるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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