コラム

「死ぬ用意はできている」──なぜエチオピア少数民族は絶望的な戦いに向かうか

2020年12月11日(金)16時45分

こうして立場が入れ替わったTPLFは政権から離脱し、エチオピア政府と対立を深めたのである。主流派の座を追われたTPLFにとって、その座を奪いとったアビー政権に屈することは、「反体制派」の汚名を受け入れることに等しいのであり、最後通告を無視したことは、この点から理解される。

この構図は、官軍であったはずの会津藩が時世の変化によって賊軍の汚名を着せられ、圧倒的な戦力差のある戦いに突っ込んでいった、幕末の戊辰戦争に通じる。どちらも、「降伏」を受け入れることが自分たちの存在意義を自分たちで否定することになりかねないため、難しい点で共通する。

ただし、鶴丸城に篭城した会津藩と異なり、TPLFは拠点で防御を固める陣地戦ではなく、神出鬼没のゲリラ戦を展開している。これは戦闘をズルズルと長期化させ、はまり込んだら抜けられない泥沼のようなものになりやすい。

エチオピア政府・軍はソマリアのテロ対策などで西側先進国に協力する戦略的パートナーだ。ティグライ州での戦闘が激しくなることは、先進国の戦略にも暗い影を落とすといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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