コラム

先住民族「強制収容所」で子供215人の遺骨発見──それでもカナダが先進的な理由

2021年06月08日(火)18時30分

その意味で、カナダの「強制収容所」で死亡した多くの先住民族の子供は、近代国家に押し潰された人々の一つの典型ともいえる。

カナダでは現在も先住民族の所得が全体的に低く、アルコール中毒や犯罪にかかわる者が目立つが、開拓時代からの差別的な扱いはその大きな背景になっている。さらに、近年では先住民族に対するヘイトスピーチなども問題になっている。

ただし、あえていうと、カナダは比較的「まし」な部類に入る。それは被害者の数や規模をいっているのではない。過去の闇と向き合う姿勢のことだ。

カナダの「文化的ジェノサイド」

そもそも今回の発見は、突然あるいは偶然やってきたわけでなく、これまでに進められてきた、先住民族弾圧の歴史を振り返る作業の延長線上にあるものだ。

国連総会は2007年、「先住民族の権利に関する国連宣言」を採択し、先住民の権利回復を目指すことが確認された。宣言の採択以前、カナダはアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド(どれも大規模な開拓の歴史を持つ国)とともに、これに反対していたが、採択後はむしろ率先してその実行に当たってきた。

カナダ政府は2008年、過去の先住民に対する扱いを公式に謝罪し、実際に何が行なわれたかを究明する組織として真実和解委員会を発足した。この委員会は生存者からの聞き取りや歴史文書の調査などを踏まえて2015年に最終報告書を発表し、6000人以上の子供が寄宿学校で死亡したことなどを明らかにしたうえで、当時の政策を「文化的なジェノサイド」と公式に認めた。

さらに真実少委員会は、こうした調査報告を踏まえて、まだ発見されていない寄宿学校の跡地の発掘など94項目のプロジェクトを提案した。2015年に就任したトルドー首相はその全ての実施を約束しており、例えば2019年には発見されている寄宿学校や子供の特定などの事業に3380万カナダドル(約28億円)の資金を拠出するなどの取り組みを進めてきた。

このようにカナダ政府は、自らの暗い歴史と向き合ってきたのであり、まだしも誠意ある態度といえる。

自国を賛美するだけが愛国か

逆に、多くの国では過去の闇と正面から向き合うことへの抵抗も目立つ。

例えば、やはり開拓の歴史をもつアメリカでは、2009年にオバマ大統領(当時)が先住民族に対する過去の暴力や虐待を公式に認めて謝罪する法案に署名した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story