コラム

トランプで世界経済はどうなるのか

2016年11月18日(金)17時30分

Carlo Allegri-REUTERS

<減税と公共投資を中心とするトランプノミクスが額面通りに現実化されたときに、世界経済に何が生じるかは、短期的にはきわめて明らかである>

「トランプ・リスク」に踊らされた市場

 2016年11月のアメリカ大統領選挙は、大方の予想を裏切って、共和党候補ドナルド・トランプの勝利に終わった。

 マーケットではこれまで、アメリカ有権者の意識調査等でトランプ有利の結果が出るたびに、市場はいわゆるリスクオフの状態となり、日米とも株価は下落し、為替市場ではドル安円高が生じていた。投票日の直近では、民主党候補ヒラリー・クリントンの電子メール問題に一応の決着が付いたということもあり、クリントンの勝利はほぼ確実視されていた。その証拠に、マーケットではその結果を見越して、株高とドル高円安が進んでいた。

 ところが、最終的な結果は事前の予想とはまったく逆であることが、開票が進むにつれて否応なしに明らかになっていく。そこでマーケットに生じたのは、まさしく本年6月に実施されたイギリスのEU離脱(いわゆるブレグジット)をめぐる国民投票の開票過程で起きたことの再来であった。予想外の結果が現実化しつつある中で、リスクオンからリスクオフへのパニック的な巻き戻しに伴う、株価と為替の大変動が生じたのである。

 ブレグジット開票日の6月24日に、日経平均は1,286円下落し、為替市場では1ドル106円台から99円台への急激なドル安円高が進んだ。それに対して、米大統領選挙開票日の11月9日には、日経平均は919円下落し、1ドル105円台から101円台へのドル安円高が進んだ。トランプ・ショック時の株価と為替の変動幅はブレグジット・ショック時よりは小さかったものの、トランプの勝利がマーケットからは大きなリスクと認識されていたことは明らかであった。

 ところが、マーケットではその後、さらに予想外のことが生じた。開票翌日の11月10日になると、日経平均は一転して1,092円もの急騰をみせ、為替も再び1ドル105円台に戻り、ほぼ1日でトランプ・ショックによるリスクオフを完全に打ち消してしまったのである。その流れはその後も継続し、翌週末の11月18日には、日経平均は年初以来の1万8千円台を回復し、為替市場では1ドル110円台までドル高円安が進んだ。

 事態のこうした推移は、単にトランプが勝ったということだけではなく、「トランプが勝ったら起きるだろう」という事前の予想とはまったく逆のことが起きたという二重の意味で予想外であった。選挙の前には、日本の市場関係者のほとんどは、「トランプが勝つ可能性は低いが、万が一勝ったら市場では円高と株安が生じ、日本経済は再び苦境に追い込まれるだろう」と述べていたのである。しかし現実には、彼らが想定していたこのトランプ・リスクは、一瞬だけ発現したものの、あっという間に雲散霧消したのである。なぜそのようなことが生じたのか、まずはその問題を考察しよう。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story