コラム

老後資金二千万円問題 政策的な論点はどこか

2019年06月17日(月)10時30分

一番知りたいのは、自分の年金はいくらぐらい?ということ Hana-photo/iStock.

<老後二千万円問題で、「100年安心ねんきん」が国民に大きな誤解を与えていたことがわかった。これは100年後まで十分な年金が支払われることを保障したものではない。肝心の年金額は一体いくらなのか>

これはこの二千万円問題とは直接は関係ないが、この騒ぎでかえって明確になった公的年金の政策的な問題点について指摘しておく。

実は、論点は国民民主党代表の玉木氏がブログで述べているとおり。これほど良くまとまった議論は他にないのではないか。

<関連記事>老後資金二千万円問題 100年あんしん年金の最大の問題点
<関連記事>老後資金二千万円問題 「悪いのは誰か」

政策的な論点は2つ。

最も重要なのは、「100年安心ねんきん」、という言葉は詐欺か嘘かミスリーディングか、言葉の強弱はいろいろあるが、要は正しくない、ということだ。

玉木氏がいうように、100年間積立金がプラスで推移する(逆に言うと100年後にはゼロになるが、このときは人口ピラミッドが定常状態に入っているので歳入と歳出とが見合うようになっている、ということだが、それも本当は怪しい)、ということなのだが、100年間年金水準が十分な状態にあるということを示したものではないし、ましてや人生100歳時代にもあんしん、というような根本的な誤解を放置しておくのは罪である。

そして、100年あんしんという宣伝文句に対するもっとも素朴で重要な批判は、その100年間、どのくらいの額の年金がもらえるのか、ということがはっきりしない、ということだ。

問題点は2つある。

1つはよくある批判で、見通し、前提の数字が極めて楽観的な数字になっていて、実際の経済は成長しないし(人口がかなり減っていくのだから成長しようがない)、運用もそんなにうまく行くわけもなく、株式市場などは、戦後の75年間は異常に上昇した時期で(経済成長も世界的に人類史上稀に見る高成長の時代)、実際には、もっと早く積立金は枯渇してしまうだろう、ということ。

しかし、より重要なのは、年金の支払われる水準が、働いていたときの所得水準に対する代替率で常に語られていることで、年収1000万円だった人の年金が代替率は昔は65%と言われていたのが今では50%は割らない、というところを防衛線にしていて(厚生労働省は)、それが実際には40%ぐらいになってしまう、という批判があるのだが、実はそれはどうでもよい。

1000万だった人の年金が650万でも400万円でも、本人にとっては重要だが、年金だけで暮らしていこうと思えばいける水準にあることは間違いがないから(贅沢したいなら無理だが、それは政策的には知ったことではない。問題はそうなると年金が払い損になるから年金から離脱する高所得者が増える、という問題にある)、重要性は低い。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story