コラム

サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

2019年09月17日(火)12時30分

トランプはツイッターで吠えるが、国民の支持率を失う武力行使には踏み込まない。吠えた後、仲良くして、相手を屈服させ、その後、友好を結び、自分が成果を上げた、と主張できればそれでよく、本質的に長期的な米国のパワーを失っても、それが国民に気づかれなければそれでよいのだ。

だから、イランにも、北朝鮮にも、そしてポーズと異なり中国にも本質的には弱腰だ。中国は、経済的交渉では強気に見せるが、軍事的には面倒なので、中国のやりたい放題やらせておく。韓国と日本の関係も関心がないのだ。それは米国民の関心事でないからだ。中国も米国民にとっては軍事的な脅威ではなく、社会主義が嫌いなだけであり、雇用が奪われているというイメージがあるだけであり、そこだけ攻撃すればよいのだ。

したがって、今後、トランプ外交は米国に大きな損失を与えるが、トランプはこれを気にしない。

さらに、経済的ではない、地政学においてはまったくトランプは何もしない。自爆テロと同様に目先の経済的利害(自らの肉体的な命と同様に)を無視した決死の戦いにはすべて負ける。北朝鮮もイランも、経済的制裁など何するものぞ、という姿勢で臨めば、彼らの得たいものを手に入れていくことになろう。

テロの持続性とコスパが高まる

この流れで、2つ目に重要なことは、ドローン攻撃の劇的な効果が世界中に知れ渡ったことだ。今後、世界中のテロリズムは活発化し、効果は無限大になっていくだろう。

今回のドローン攻撃のポイントは2つある。第一には、物理的なコスト、人命のコストをかけずに攻撃が可能になった、ということだ。自爆テロなどに頼ることなく、一定の金をかければ、攻撃が可能になるから、今後、テロの持続性が高まった、ということだ。そして、それは誰でもできる攻撃となったのだ。

第二に、効果的なテロが極めて容易になり、テロのコストパフォーマンスが飛躍的に高まったことだ。これまでのテロのむつかしさは、軍事的な重要施設、重要人物をピンポイントで攻撃し、破壊し、抹殺することはかなり難しかったことにある。なぜなら、ピンポイントで抹殺することはむつかしく、また、殺したいものや人物は、彼らもそれに備えて、徹底的な防御をしているので、倒せない、という問題があった。

しかし、今回の攻撃で明らかになったのは、軍事的な防御をされていない経済的な施設を、100%ではなく、ある程度、できる範囲で破壊すれば、十分なダメージを相手に与えることができる、ということだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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