コラム

東芝が悪いのか、アクティヴィストが悪いのか

2021年06月18日(金)09時20分

また、永田町、霞が関関係者なら全員知っているように、参与、というのは名前だけで、何の公式の権限もないだけでなく、省庁としても、ほとんど認識していない政治家のお友達が肩書をつけているだけ、という認識であって、これは、この報告書に出てくる参与だけでなく、すべての参与がそうだ。だから、参与が圧力、といっても、それはせいぜい個人的な圧力であって、経産省の圧力だとはだれも思わない。

そして、もっとも重要なことは、東芝が株主をないがしろにしようとした、という点であるが、これも、特定の一人の役員が躍起になって、経済産業省をたきつけて、外為法の議論を利用して、この特定のアクティヴィストファンドを封じ込めようとしただけであり、報告書を読んでも、他の東芝役員はそのようなことが妥当でないだけでなく、効果もあるのか疑問を持っていることが見受けられる。そして、この一役員と、孤軍奮闘した経済産業省の一課長が、勝手に暴走したように見える。

アクティビストの意を受けた調査

そして、愚かな他の東芝の役員たちは、ファンドの攻勢をただ恐れ、怯え、なんとかならないかと思い、この暴走する東芝役員の経産省を巻き込もうとする動きを見て、経産省が味方してくれればいいなあ、という淡い期待を抱きつつも、そうはいかないのでは、と不安を持ちながら眺めていたように、見受けられる。

上記が、より客観的な東芝の株主総会における議決権行使に関する調査報告書の内容である。

そして、これが特定のアクティヴィストの意向を受けた弁護士たちによって書かれたことを踏まえると、東芝を今後どのように経営していくべきか、誰に委ねるべきかが見えてくる。長期的に保有し続けている機関投資家も含めたすべての投資家で議論し、また、メディアも、有識者も、そして学者も、客観的に、そして丁寧に事実を見極めていくべきではないか。

この東芝の一役員の行動は酷い。コーポレートガバナンスを理解していない。また株主の権限、力を理解していない。

しかし、このような愚かな役員が生まれる背景には、正しいコーポレートガバナンス、正しい株主の在り方、株主と経営陣の関係というものを真摯に、オープンに、そして理念ではなく現実を踏まえて議論してこなかった日本社会、日本のメディア、日本の論壇の問題がある。

これを機に、根本から、コーポレートガバナンス、株主によるガバナンス、とりわけ、その日本における現実およびあるべき姿、進む方向性について、幅広い人々が事実を踏まえて丁寧に議論するべきである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story