コラム

東芝の株主総会には疑惑など一切ない

2021年06月25日(金)11時00分

東芝は経済産業省と結託して「モノ言う株主」の権利行使を妨害しようとした、というストーリーが話題だが Issei Kato-REUTERS

今日は、東芝の株主総会。

一部の株主が要求して行われた調査報告書で、話題沸騰だったが、それがあまりに赤裸々に公開されたことを受けて、もともと、東芝の監査委員会が第三者に依頼して行った調査報告書の全容が公開された。

こちらの方は、監査委員会で報告を受けたが、東芝の外部の関係者に関する細かいことを公表することは適切でないと考え、主要部分と結論だけを公表していた。しかし、もはや外部の関係者のプライバシーへの配慮の必要はなくなったため、もともとの監査委員会側が発注した報告書も全面的に公開された。

メディアでは、こちらの内容はまったく取り上げられていない。

両方の報告書を熟読すると、結論ははっきりする。

みなさんも関心があって、暇なら読んでみたらよい。

両者は、見事に一致している。

内容は実質的には同一だ。

結論も、事実としては一緒で、株主総会に不適切なことはなく、経済産業省による圧力などなかった、ということである。

アクティヴィストファンドのエフィッシモが依頼した弁護士たちの報告書の方が、遥かに面白く、読みごたえがあるだけで、いわば、こちらは、週刊文春、あるいはそれよりも小説に近い、物語で、監査委員会が発注した、日本最大手の弁護士事務所、西村あさひの報告書は、大手新聞のようなもので、客観性を維持し、事実だけを淡々と書いてある。

それだけの違いだ。

組織としての関与はなかった

だから、監査委員会の報告書はつまらないから誰も読まず、エフィッシモ側の報告書は、下手な小説よりも面白いから、無駄に長いがみんな読んだ、ということに過ぎない。

東芝も経済産業省も名誉棄損で訴えていいぐらいだ。

東芝と経済産業省が、という主語が使われるが、暴走した、東芝の一人の役員と、いじめられている東芝が可哀そうになった愛情深いが軽率だった経済産業省の課長がいただけだ。

他の東芝の役員たちは、経済産業省が介入してくれることに懐疑的であり、また経済産業省は一人の課長を除いては、冷たく淡々と扱い、むしろ、巻き込まれるのは迷惑だ、という態度だったに過ぎない。

そこで、外部の人間として、しかし、一応参与だった人間が登場し、一肌脱いでやると息巻いたものの、ハーバード大学のファンドには相手にされなかった、というそれだけのことだ。

それが、両方の報告書にともに書いてある。書き方が異なるだけで、報告書から出てくる事実はまったく同一だ。

ということで、東芝問題と騒いでいるメディアや評論家、有識者たちは、両方の報告書をまったく読まずに、便乗してコメントしているか、エフィッシモの面白い方だけ読んで盛り上がっているか、どちらかだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、物価圧力緩和まで金利据え置きを=ジェファー

ビジネス

米消費者のインフレ期待、1年先と5年先で上昇=NY

ビジネス

EU資本市場統合、一部加盟国「協力して前進」も=欧

ビジネス

ゲームストップ株2倍超に、ミーム株火付け役が3年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story