コラム

「イスラム教徒の入国禁止」を提案、どこまでも調子に乗るトランプ

2015年12月08日(火)16時00分

支持率でトップを独走するトランプを、もう誰も正論では止められない Brian Snyder-REUTERS

 先週ロサンゼルス郊外で発生した乱射テロ事件は、まだまだ真相の解明には程遠い状況が続いていますが、アメリカの各メディアは連日のようにトップニュース扱いで、事件に関する情報を流し続けています。また政治家たちも、それぞれの立場で事件に関連したコメントを続けています。

 まずオバマ大統領は、事件直後には「テロかもしれないし、職場のトラブルかもしれない」という慎重姿勢を取っていたのですが、捜査の進展に伴って見解を変えてきています。今週日曜の晩には「ホワイトハウス執務室からのテレビ演説」を行って「この事件はテロ」であると断定しつつも「おそれることはない」と言うメッセージを発信しました。

 この演説ですが、「ISILには勝利する」と言っておきながら、その中身は「英仏との協調、トルコとの協調、シリア反体制派の支援、シリア内戦の終結へ努力」の4点だったことがアメリカ国内では不評です。4つの具体策と言いながら、対ISILの戦略については現状と代わり映えがしない、確かにそう言われても仕方がないからです。

 この点に関しては、共和党からは大統領は「弱腰だ」という声があり、民主党のヒラリー・クリントンも「自分はもっと積極的にシリアに介入する」と述べています。ですから今後の「対ISIL戦略」について具体的な論争が起きても良さそうなのですが、実際には議論は盛り上がっていません。

 その代わり、論点は「おかしな」方向に向かっているのです。それは、アメリカ社会に広がる「反イスラム」感情をどう扱うかという問題です。

 まずオバマ大統領ですが、「ISILは敵だが、イスラムは敵ではない」という立場で一貫しています。日曜の演説でもこの点を強調していましたし、パリの事件前後に問題となった「シリア難民の受け入れ」についても、「厳格な審査(スクリーニング)をする」という条件はつけているものの、依然として前向きです。

 ですがその一方で、時期が悪いことに、ドナルド・トランプという「政治的正しさ」という概念を否定することに情熱を傾けている稀代の扇動家が「大手を振って選挙戦を戦っている」現状があります。そのトランプですが、パリ同時テロを受けて支持率が上昇しており、今は共和党内の支持率が33~36%という「大差の1位」にまで上昇しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story