コラム

トランプ就任演説、挑発的な姿勢はどこまで本物なのか?

2017年01月21日(土)15時30分

Lucy Nicholson-REUTERS

<新大統領の就任演説は「アメリカ再建」を謳う挑発的なもの。しかし過激な政策はあくまでもコア支持層向けのパフォーマンスで、多分に現実的な政策を進めざるを得ないだろう>

 大変に挑発的なスピーチでした。普通、大統領の就任演説というのは国民の団結を呼びかけ、全世界に対してメッセージを発信する、「格調高いものにする」のが慣例なのですが、トランプ大統領の就任演説はそうした伝統をまったく無視しました。

 何しろ、冒頭の部分でアメリカを「再建する」というのですから、穏やかではありません。もちろん、雇用を中心に現在のアメリカ社会に不満があるのは事実です。ですが、少なくともリーマン・ショック以降の2009年から一貫して、景気も株価も雇用も改善を続けているわけで、オバマ政権の幕切れにいたっては高い支持率を得ていたのです。

 そんな現状に対して「再建する」というのですから、最初から「戦闘モード」だと言っていいでしょう。要するに過激なまでの現状否定です。そして、演説はその後もまったくの一本調子でした。

「アメリカ・ファースト、アメリカ・ファースト」
「アメリカのモノしか買うな。アメリカ人しか雇うな」
「他国との友好関係は築くが、とにかくどの国も『自分の国優先』というのがこの世界」

 ということで、保護主義、孤立主義を前面に押し出した内容です。そして、

「工場が閉鎖され、薬物中毒が蔓延するコミュニティーを再建する」

 という形で、自分のコアの支持者に向けたメッセージもシッカリ込めていたのです。

【参考記事】<写真特集>トランプ就任、「ポピュリスト大統領」の誕生

 では、「いかにもトランプ大統領らしい」スピーチだったかというと、少し違うように感じました。まず、さすがに「就任演説」ですから、個人攻撃とかタブーに挑戦するような下品な表現は入っていません。そのために、全体のトーンは非常に堅い感じになっていたのです。強いて言えば「暗い感じ」だと言われた、昨年夏の共和党大会における「指名受諾演説」に近いものでした。

 また、昨年にずっと続けてきた支持者集会での「話芸」と比較しますと、全体が堅いだけでなく、使われていた言葉も多少難しい表現が入っていました。語彙は相変わらず小学生向けだったのですが、少し頭を使わないといけない比喩などが入っていたのです。

 そんなわけで、会場の盛り上がりは今一つという感じでした。コアの支持者だけに絞った内容のため、反対派には反発を買いこそすれ評価される可能性はほとんどない内容であったのに、コアの支持者にも届きにくいスピーチだったように思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前月比+0.3%・前年比+3.4%

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story