コラム

米政界に衝撃、ライアン下院議長は中間選挙になぜ「出馬しない」?

2018年04月12日(木)15時00分

3つ目は、まさに現在進行形の問題として、大統領が「ホワイトハウスを捜査対象として任命された」ムラー特別検察官を解任したい、そのためにムラー氏についての人事権を持っているローゼンスタイン司法副長官を解任しようという意向が見え隠れしている現状があります。仮に大統領がムラー解任に踏み切ると、「憲政の危機」が発生する、つまり特別検察官の独立性が侵害されて権力への牽制ができなくなると言われています。そのような事態を防ぎたいという「抗議の辞任」の意味合いもあると思います。

4つ目は、自身の政治家としての将来への計算です。仮に中間選挙で共和党が大敗し、勝った民主党が大統領弾劾に動けば、トランプの代わりにペンス副大統領が自動的に大統領職に昇任します。そのプロセスでは、大統領が辞任する代わりに、司法免責を与える措置が取られる可能性が濃厚なのですが、それをやってしまうと、ペンス氏は「悪者を免罪した」として世論の怒りを買い、1980年のジェラルド・フォードのように次の大統領選に落ちてしまう可能性が高くなります。

そこで、ペンス氏には「再選を求めない」ことが考えられ、その場合にライアン氏には2020年の共和党大統領候補となる可能性が回ってきます。現時点でライアン氏は、この可能性は排除するとしていますが、2年後のことはわかりません。そう考えると、弾劾劇のドタバタには部外者の方がいいというわけです。

では、仮にそのような動機があるとして、今回の「下院議長の出馬撤回」という事件はどんな波紋を呼ぶのかというと、それは「連邦下院で共和党が過半数を失う」可能性が加速したということに尽きると思います。

具体的には、ライアン氏の議席が「もしかしたら民主党に」取られる可能性だけでなく、ライアン氏が「戦線離脱」したことで、「政治資金集めのための広告塔が消える」問題が取り沙汰されています。さらに共和党内で「出馬断念ドミノ」が広がるという指摘もあります。現時点で40人を超えている現職共和党下院議員の「出馬断念」がさらに増えれば、これは大変なことになります。

今回の事態は、「トランプ政権の終わりの始まり」と言えます。アメリカのメディアでは、これまでは避けられていた「弾劾(インピーチメント)」という言葉が、急に言及されるようになってきています。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story