コラム

ハーレー不買運動を煽るトランプの危険な兆候

2018年08月14日(火)18時10分

「バイク乗り」の支持者グループと会談したトランプ Carlos Barria-REUTERS

<欧州市場向け製品の国外生産を決めたハーレーダビッドソンに対する不買運動をけしかけるトランプ。経済ナショナリズムを余りに単純化すれば、政権自体が経済リスクとなる恐れも>

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談したり、中国相手に貿易戦争を仕掛けたあたりで、さすがのトランプ劇場も「そろそろネタ切れ」ではと思ったのも事実です。しかしこの夏に至っても、次から次へと「新しい材料」を繰り出してくるのには驚かされます。

その「トランプ劇場」ですが、最新の、そして話題になっているのはオートバイの有名メーカー「ハーレーダビッドソン」への不買運動を扇動した騒動です。ハーレーダビッドソンといえば、アメリカを代表するオートバイメーカーで、トランプ大統領も「メイド・イン・USAの誇り」だとして、散々持ち上げてきたブランドだったはずです。

何が起きたかと言うと、今年5月にトランプ大統領が仕掛けた「貿易戦争」の一環として「欧州からの鉄鋼・アルミの輸入に対する関税措置」が発端になっています。鉄鋼には25%、アルミには10%という関税について、EUは免税だったのを一気に課税するというので大騒ぎになりました。

EUは、そこで間髪を入れずアメリカには報復関税を発動すると通告しました。EUの報復は非常に露骨なもので、「共和党の地盤」である各州の特産物を狙い撃ちする作戦でした。つまり、「ケンタッキー州のウイスキーとトランプカード」「フロリダ州のレジャーボート」「アーカンソー州のコメ」そして「ウィスコンシン州などで生産されるハーレーダビッドソンのオートバイ」というようにピンポイントで設定してきたのです。

つまりEUの狙いとしては、こうした各州の経済にダメージを与えて、共和党とトランプ政権に報復しようというわけです。さらに言えば、「いかにもアメリカを象徴する」製品をターゲットにして、報復的なニュアンスを強めようという意図も見えていました。

ハーレーダビッドソンの経営陣は苦悩しました。というのは、欧州市場はアメリカ本国に次いで大きな市場だったからです。その結果、同社は欧州市場向けの製品を「海外生産に切り替える」と発表しました。2018年6月末のことです。

トランプ大統領は、「早々に(貿易戦争の)白旗を上げるとは何だ」と文句を言っていたのですが、その不快感が段々エスカレートしたようです。そんな中で、今週12日の日曜日、休暇を取っていた大統領は、ニュージャージー州のゴルフコースに、アメリカの「バイク乗り」グループを呼んで小規模な「アンチ・ハーレー」の集会を開いた格好になりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バーゼル委、銀行監督規則を強化 気候変動関連リスク

ワールド

韓国財政、もはや格付けの強みではない 債務増抑制を

ワールド

米最高裁、トランプ氏免責巡り一定範囲の適用に理解 

ワールド

岸田首相、5月1─6日に仏・南米を歴訪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story