コラム

パスポートに旧姓併記するなら、夫婦別姓の方が現実的?

2019年06月06日(木)15時40分

例えば、パスポートの表記は「YAMADA(SUZUKI)」になっていても、ICチップには戸籍名(この場合は「YAMADA」)しか登録できないことになっているので、「表記とチップのデータが不一致」になるわけです。

そうなると、例えば航空会社のEチケットでのチェックイン時にエラーになるとか、国によっては自動入国審査システムでエラーとなり、「別室へどうぞ」ということになって入国に時間がかかるということが起こり得ます。

またチップの情報との不一致エラーだけでなく、そもそも「2つの姓を使い分けているのは怪しい」として、入国審査官の心証を悪くする可能性もあります。また、ビザについては戸籍名で取った(取るしかなかった)のに、パスポートの表示は旧姓併記である場合に、氏名の「不一致」が問題になり入国審査に時間がかかるというケースも想定されます。

では、この場合、河野外相が指示したとして、外務省はどのように対応が可能なのでしょうか? 一つ考えられるのは、外務省のホームページに各国語で、

「日本国においては婚姻等により姓を変更した場合も、実業界や学界で旧姓を通名として使用するケースが多く、国外における旧姓による身分証明の必要性も増大しております。そこで、日本国民のパスポートにおいては、申請により旧姓をカッコ書きして表示する制度を導入しております。」

といった「説明」を分かりやすく表示しておき、該当者はそのページを印刷しておいてトラブルに備えるということが考えられます。

それでも各国の出入国管理官、あるいは多くの航空会社から「ICチップの情報」と「パスポートの表記」を一致させて欲しいという要請があったり、また、日本人が行き来することの多い、米国、EU、中国などが「査証申請の名前も一致させて欲しい」というような流れになる可能性も考えられます。仮に、テロ防止への厳しい国際協調が要請されるような動きが強まれば、そうなるでしょう。

その場合は、日本独特の「カッコ書き」も不自然だから止めることとなり「YAMADA SUZUKI」という表記になり、それがICチップにも、ビザ申請にも使われる、そんな可能性もゼロではありません。航空券などは、既にカッコをとって、「HANAKO YAMADA SUZUKI」のような運用になっているケースもあるようです。

仮にそうなると、日本人であるのに、日本人の名前にはあるはずのない「ミドルネーム(海外ではそう見られます)」を使用することとなり、しかも日本政府がそれを公認して推奨するという不思議な状況になってしまいます。

そこまで問題を「こじらせる」のであれば、やはり本人たちの希望による選択式別姓を早々に導入する方が現実的と思うのですが、どうでしょうか?

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story