コラム

日米安保破棄? トランプ発言のリアリティーと危険度

2019年06月27日(木)16時20分

さらに今回の発言に関しては、「第二次大戦後に国連に加盟させられて、これとセットでサンフランシスコ講和と日米安保にコミット。その結果として太平洋の平和を維持するという高コストな役割を背負わされた」ことにも反対ということになります。大変に危険な考え方ですが、アメリカ「保守」の伝統である孤立主義からすると、そうなるわけです。

それでは、トランプは太平洋の平和維持という責任を放り出して、例えば南西諸島から台湾、フィリピン以西(第一列島線)あるいは、小笠原以西(第二主権線)の制海権を中国に引き渡そうと思っているのでしょうか?

それは違うと思います。この点については、アメリカ保守政界が「成功事例」だと信じているニクソンやレーガンの手法を意識している、そんな可能性を感じます。つまり、中国の海洋進出については日本に対抗させるのです。そのようにして日中両国をお互いに軍拡競争の泥沼に引きずり込んで、最終的に両国とも経済的な破滅に追い込むという作戦です。

何とも荒唐無稽な話ですが、この大統領の発想法、そしてアメリカの保守政治に綿々と流れる孤立主義や、大胆なマキャベリズムの伝統を考えるとき、そのような危険性を理解して警戒しておくことは必要と思います。その意味で、今回、安倍総理と習近平主席がG20の前に首脳会談を行って「永遠の隣国」としての関係強化を確認するというのは、極めて重要だと思います。

では、この「安保破棄」のリアリティーはどうかという問題ですが、仮にトランプ政権が再選されて2024年まで続くにしても、この期間にそうした激変が起きる可能性は少ないと考えられます。ですが、やがていつかは実現するであろう民主党左派の政権になれば、その可能性は否定できません。

というのは、AOC(アレクサンドラ・オカシオコルテス)議員など若い世代の民主党左派は、環境や雇用のために莫大な国費を投入すべきと考えており、それゆえにトランプ以上に保護主義であり、また軍事外交においては孤立主義であり、不介入主義だからです。

そのことを考えると、今のうちに「ポスト日米安保」について日本が真剣な検討を進めておくことは必要かもしれません。少なくとも、「枢軸国の名誉回復」だとか「一国平和主義」といった左右両派の無責任なファンタジーは、日米安保を前提として依存した安易なものだということは認識しておいた方が良さそうです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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