コラム

安倍改造内閣、政策の要点はただ一点「第3の矢の実行」

2019年09月12日(木)16時15分

具体的には、

▼自動車やエレクトロニクスなど多国籍企業が、生産拠点だけでなく、研究開発やデザイン開発の拠点まで日本国内から海外に移転し、これに伴って海外での収益を海外での再投資に回している。このトレンドを反転させなくてはならない。

▼エレクトロニクス産業を中心に、世界の最終消費者のトレンドを追う能力が減退し、その結果として法人や政府の需要(B2B)ビジネスへとシフトを進めている。その結果として損失のリスクは少なくなったかもしれないが、市場が限定され経済規模も縮小することとなった。

▼スマホというハードとソフトの技術が日進月歩の巨大産業では、既に競争力を完全に喪失し、ノウハウは部品産業として残るだけとなった。

▼ソフトウェア(アプリ)を最先端技術で改良しながら巨大な市場を開拓するような、大規模な電子取引、検索+広告ビジネス、音楽や映像のストリーム配信、シェアリング産業などでは、社会のベンチャー育成能力が弱いために、結果的に巨大な日本国内市場が外資に蹂躙され、そのことに悔しさを感じることすらできなくなっている。

▼紙を使った作業と、対面型コミュニケーションを主とした日本語によるオフィスワークという非効率な業務に、高い教育レベルの人材が消費されている。その結果として、日本企業全体の生産性も向上しない。

▼英語による訴訟、株式公開、契約といった21世紀のビジネスにおける基本インフラができていないために、多国籍企業のアジア拠点を香港やシンガポールに奪われた。

▼大卒比率50%という高学歴社会であるにも関わらず、本来が低付加価値である観光業を産業の柱にするといった自滅的な政策が採られている。

以上のような問題です。アベノミクスの「第3の矢」というのは、こうした問題を克服して日本経済が新たな成長路線に戻るための重要な政策であったはずです。安倍政権が総仕上げの時期を迎える中で、何としてもこの「第3の矢」を実現して、新たな時代への方向性を示してもらいたいと思います。

野党に目を転ずれば、立憲民主党や共産党など左派の政党は、もはや経済成長に興味はないようですし、維新などの勢力は公共セクターの破壊による納税者のカタルシスしか考えていないようです。それ以外の諸派に至っては、経済政策に類するものはありません。

その結果として、構造改革の主体となりうるのは安倍政権しかないわけです。産業構造を健全化する構造改革、これが現在の日本にとって唯一求められ、そして国の存亡のかかった政策に他なりません。内閣の命運をかけて、そこにメスを入れていくことを期待したいと思います。アベノミクスは「3本の矢」が揃ってはじめて成功という評価が与えられるものですし、そもそもそれが第二次安倍政権発足時の国民との約束でもあります。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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