コラム

即位礼のテレビ中継で見えた、皇室文化の多層的な発展

2019年10月23日(水)16時45分

もう1つは、仏教の位置付けです。和洋中の折衷という感じで、多層的な文化の見られる即位礼ですが、日本の伝統文化の中で大きな位置を占める「仏教」の影響はあまり残っていません。

この点に関して言えば、明治以前の13世紀から江戸期までの即位礼では、今回も使われた「高御座(たかみくら)」への登壇と着座にあたって、仏教の一宗派である密教の儀式が行われていたという歴史的事実があります。一般的に「即位灌頂(そくいかんじょう)」と呼ばれるものです。

この時代の神道は、仏教と混ざり合った形となっており(神仏習合)当時の人々には何の違和感もなかったようですが、明治以降は「神道と仏教はできるだけ分離」することになって、この即位灌頂は消滅しています。

明治以前の天皇家は仏教に帰依しており、菩提寺に相当する京都の泉涌寺(せんにゅうじ)という寺院には多くの天皇の位牌があり、また境内に墓所もあったりします。

即位礼の一部として高御座で即位灌頂が行われ、また皇室の菩提寺として泉涌寺が歴代天皇の葬儀を司ったり陵墓がそこに作られたりという歴史をどう評価するのか、戦前の明治憲法化では事実上否定されていたわけですが、もう一度議論をする必要はあると思います。

天皇家の歴史の中で長く行われた伝統として復活させるべきという考え方もありますし、一方で、即位灌頂の実施や泉涌寺への帰依というのが武家政権の時代と重なることから、復活は不要という考え方もあると思います。

今回、高精細画像で詳細が伝わった「高御座」については、デザインや装飾はどう考えても神道のカルチャーではなく、密教的なものが感じられます。そう考えると、この議論はやはりしっかりやっておいた方が良いのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サウジ6月原油販売価格、大半の地域で上昇 アジア5

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は予想上回る 見通し

ビジネス

バークシャー株主総会、気候変動・中国巡る提案など否

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story