コラム

民主党予備選まで2カ月、トランプ弾劾と同時進行の異常事態

2019年12月05日(木)17時20分

予備選と弾劾が同時進行する前代未聞の事態に Brendan Mcdermid-REUTERS

<当初の乱立状態から候補者が絞り込まれ、実現可能な中道政策へと論戦がシフトする可能性も>

ここのところアメリカのテレビニュース報道は「トランプ弾劾」ばかりが話題になっています。弾劾の容疑は「政敵であるバイデン前副大統領の息子を捜査しないと、軍事援助を打ち切る」とウクライナの大統領に圧力をかけた件で、どう考えても異常な行為です。ですが、3分の2の賛成が必要とされる上院では共和党が過半数であり、弾劾が成立する可能性はほとんどありません。

問題は、それでも政府高官や法律学者などが次々に議会で「大統領の行為には驚いた」とか「明らかなに違法だ」と証言すると、そればかりがニュースで大きく取り上げられることです。その結果として、佳境を迎えている民主党の大統領予備選については、テレビでも新聞やネットでも2番目以降の扱いとなっています。

これは、ある程度予想された事態であり、だからこそ議会民主党のリーダーであるナンシー・ペロシ下院議長は弾劾には消極的だったのです。ですが、「ウクライナ問題」の疑惑が余りに異常だったために、党内の突き上げが抑えられなかったということのようです。

その一方で、ここへ来て民主党内の予備選レースはかなり様相が変化して来ました。

オローク、ハリスの脱落

まず、当初は20人以上が乱立していましたが、候補者が絞られてきました。予備選本番がスタートするアイオワ党員集会まで2カ月となるなかで、民主党の全国委員会が「テレビ討論の参加人数」を絞りにかかっていることもありますが、有力視されていた候補の中でも脱落者が出てきているのも事実です。

例えば、2018年の中間選挙においてテキサス州でテッド・クルーズ議員相手に善戦したベト・オローク氏は、一時期は有力候補の1人と言われていましたが、エルパソでの乱射事件以降は銃規制を中心に訴えた結果、保守州での支持率が下がり、撤退に追い込まれています。

また一時期は全国平均で15%近い支持を集め、アイオワ州ではトップを走っていたこともあるカマラ・ハリス上院議員は、その後の支持が低迷する中で、12月に入って撤退を表明しています。本人は「アメリカは、有色人種の女性(彼女はジャマイカ、インド系)を大統領にする用意ができていなかった」などと怒っていますが、実際は選対が左派と穏健派に分裂するなど運動継続が難しくなっていたようです。

そんな中、12月19日(木)に行われる第5回の予備選テレビ討論の参加者が確定しました。党の全国委員会の決定により、今回は6人という狭き門となったのですが、その中にはヘッジファンドで財をなしたトム・ステイヤー候補が入っているとして一部には批判があります。テレビ討論の参加資格である、個人献金人数や世論調査での支持率をカネで手に入れたという批判です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story