コラム

トランプ演説原稿「破り捨て」は、再選阻止を誓うペロシの宣戦布告

2020年02月06日(木)15時45分

「ブッシュが引き起こしたリーマン・ショックという危機から、8年間かけて景気と株価と雇用を好転させたオバマ政権の功績を無視して、現在の好景気を全て自分の功績とした」

「不法移民をいつのまにか犯罪者移民と言う言い方にすり替え、不法移民の絡んだ事件の被害者を議場に呼んだ上で、あらゆる不法移民を排斥すると宣言」

「メキシコ国境の壁の建設を成果とし、ICE(移民取締官)の摘発を英雄行為として、民主党の、いや2016年以前の共和党の移民政策も全否定」

「イラクでのシーア派武装集団との戦闘で犠牲になった兵士の遺族を議場に呼んだ上で、ソレイマニ司令官の殺害を正当化」

「右派ポピュリズムを煽り続けた民主党の敵の中の敵、保守派DJのラッシュ・リンボーを呼び、議場で文民最高の栄誉である大統領自由勲章を授与。闘病中のリンボーはこれに感激」

「ベネズエラの社会主義が破綻したことを、わざわざベネズエラの野党指導者を呼んで強調した上で、民主党左派の国民皆保険は危険な社会主義だと非難」

「軍事外交では同盟国への負担拡大を宣言」

ということで民主党としては、演説の内容について同意できる箇所は「ゼロ」だということになります。

一方の共和党の結束は固くない

その上で、弾劾が不成立となる以上は、11月の大統領選でトランプを「引きずり下ろす」しかない、「原稿破り捨て」という行為は、その決意を示すためという意味もあったのだと思います。改めて民主党の全党に結束を促しているということです。

これに対して、共和党の議員団の結束というのは少し様子が違います。確かに、議場の共和党議員団からは演説の冒頭で「更にもう4年("Four more years!")」という合唱が起きていました。また、共和党の議員たちは大統領の主張のほとんど全てについて拍手をし、主要な箇所では起立をしていました。この様子を見れば共和党も結束しているように見えます。

ですが、翌日の弾劾審理の中では、共和党の上院議員の多くは「(ウクライナ疑惑に関する)大統領の行動は不適切」だとしつつ、「だが大統領の座から追うには値しない」というような表明をしていました。堂々と「弾劾を認める」投票をしていたのは、ミット・ロムニー上院議員(元大統領候補、ユタ州選出、当選1回)だけでしたが、多くの議員は大統領の言うような「魔女狩り」とか「でっち上げ」という評価はしていません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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