コラム

劣勢明らかなトランプに、逆転のシナリオはあるのか?

2020年07月28日(火)17時00分

そんな中で、保守系のFOXニュースの解説委員長格であるクリス・ワレスがトランプ大統領との単独インタビューの際に「(コロナ危機など一連の事態に)責任を感じるか?」と尋ねたところ「自分は大統領なので全てに責任があるが、それがどうしたんです?」と居直り気味に返答するという出来事もありました。大統領の発言がより極端になる中で、保守派の有権者にも響かなくなっているようです。

党大会の方針も迷走しています。散々、開催にこだわって、ノースカロライナ州からフロリダ州に主要会場を移動して計画していた共和党大会について、フロリダ州の感染拡大を受けて、開催断念に追い込まれています。政治的には大失点であり、代替案も遅れているようです。バーチャル党大会の企画をどんどん詰めている民主党側とは、かなり差がついた形です。

4月末から5月にかけてトランプ政権が経済の再オープンを煽った結果が、現在の南部と中西部の感染爆発につながったという理解が広がっているために、本来は保守の強い州、そして激戦州において大統領が自滅へ向かっているのが選挙戦の現状と思われます。

しかし仮にそうでも、トランプによる大逆転の可能性はゼロではありません。そのシナリオとしては、

1)バイデン陣営が副大統領の人選に失敗して失速。
2)バイデン候補本人もしくは周囲に健康問題発生。
3)トランプによる徹底した挑発作戦の結果、デモ隊が暴走して殺傷事件を起こしてしまい、民意が民主党から離反。
4)最高裁のギンズバーグ判事が健康問題で辞任した場合、後任に超保守派判事を据えることに成功すれば共和党の団結が回復して選挙情勢が一変。
5)ワクチン開発に見通しが立ち、9月以降の株と雇用が一気に好転して強気に。
6)中国との対立をエスカレートさせる中で、バイデンは親中的というトランプ陣営のネガキャンが成功してしまう。

などが考えられます。逆に考えれば、現在トランプ大統領が必死になって切っているのは、こうした逆転狙いのカード(例えば3や6)とも言えます。ですが、カードは中途半端に使うと、自分への支持を余計失うこととになり、両刃の剣とも言えるのです。いずれにしても大統領選は、バーチャル、リモートの世界に移行しつつかなり熱を帯びてきました。

<関連記事:米民主主義の危機 大統領選で敗北してもトランプは辞めない

【話題の記事】
・新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・これは何? 巨大な黒い流体が流れる様子がとらえられる


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story