コラム

後味の悪かったワールドシリーズが象徴する米社会の重苦しさ

2020年10月29日(木)13時40分

ワールドシリーズではドジャースが32年ぶりの優勝を飾ったが Kevin Jairaj-USA TODAY Sports/REUTERS

<大統領戦を目前に控えた現状では最終戦にもつれ込むことはできないという判断が、試合途中で働いた可能性がある>

2020年のアメリカ大リーグは、春先からのコロナ禍拡大の中で開幕が先送りされ、結果的にシーズンがスタートしたのは7月で、公式戦は60試合のみ、しかも無観客という変則的な開催となりました。その後には拡大されたポストシーズンが行われ、ロサンゼルス・ドジャースが、32年ぶりにワールドシリーズを制覇して、今季の全日程は終了しました。

問題が起きたのはその直後です。テレビ中継では、最終第6戦が終って表彰式に移るCMタイムになって突然、ドジャースのジャスティン・ターナー三塁手がコロナ陽性となり、直ちに隔離されたことが発表されたのです。そこから、様々な報道や憶測が展開されることになりました。

(1)隔離されたはずのターナー選手は、テレビで生中継された表彰式には出なかったものの、その後のチーム全員による記念撮影には登場しており、時折マスクを外していた姿が報道陣によって撮影されています。

(2)押しも押されぬスターであるターナー選手ですが、8回表から三塁の守備からは退いていました。その時は説明はありませんでしたが、後から考えれば、検査結果が陽性と判明したために試合から外れたと考えるのが自然です。

(3)最後の回だった9回の表、タンパベイ・レイズは1対3で2点差で負けていただけで、いくらでも挽回できたはずでしたが、攻撃は淡白でした。最後の1球は2ストライクから真ん中のストライクを見送って試合終了でしたが、バッターは悔しそうな顔もせずにサッサとベンチに引き揚げています。

3勝3敗でタイになると......

レイズがこの試合に勝ってしまうと、3勝3敗のタイになって翌日の10月28日(水)に第7戦を行うことになります。ですが、ターナー選手が陽性ということになると、両チームの選手は濃厚接触者となり、すぐには試合はできません。そうこうするうちに、11月3日の大統領選という全国イベントがやってきてしまうので、試合をその後に延期するしかなくなります。そこで、試合が進行していた途中のある時点で、レイズについてはもう逆転は狙わせないという判断が、どこかで下された可能性が否定できません。

(4)憶測を呼んでいるのは、2安打無失点9奪三振と好投していたレイズのブレイク・スネル投手が6回1アウト、投球数73球で降板させられた件です。1対0で勝っていたレイズは、直後に2点を献上、ドジャースは8回に1点を追加して3対1で逆転勝利したのでした。

解説としては、キャッシュ監督は「スネル投手は打者3巡目で崩れるだろう」というAIデータの判断に引きずられたという見方が多いのですが、この日のスネル投手は絶好調で気合も入っていただけに不自然といえば不自然です。監督の姿勢も、丁寧に説明するのではなく一方的に降板させた格好であり、その後、ベンチに戻ったスネル投手はずっと不満そうな表情を浮かべていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

デンソー、今期営業利益予想は87%増 合理化など寄

ビジネス

S&P、ボーイングの格付け見通し引き下げ ジャンク

ワールド

ポーランドの米核兵器受け入れ議論、ロシア「危険なゲ

ビジネス

バーゼル委、銀行監督規則を強化 気候変動関連リスク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story