コラム

ミャンマー情勢、日本外交の選択肢

2022年08月03日(水)15時30分

民主活動家の処刑に抗議するタイ在住のミャンマー人の人たち Soe Zeya Tun-REUTERS

<国軍が独裁体制を強化し中ロに接近するなか、日本の外交政策は行き詰まっている>

2021年の2月に国軍が実権を掌握して、事実上の軍政に戻っているミャンマーでは、最大都市のヤンゴンで7月30日、日本人ジャーナリストが治安当局に拘束されました。この事件については、この間起きている一連の流れの中で理解する必要があると思います。

まず6月22日には、クーデター以来軟禁されていた、アウンサンスーチー氏がネピドーの自宅から、「刑務所敷地内に新築された施設」に移動させられています。事実上の収監と言えます。

7月2日には、中国の王毅外相がクーデター後、初の要人訪問として、ミャンマーを訪問し、国際会議に参加しています。

さらに、7月11日には、国軍の最高指導者である、ミンアウンフラインが、ロシアを訪問し、国防省の高官と会談しました。この会談について、ロシア国防省は12日になって声明を発表し「戦略的なパートナーシップの精神に基づき、軍事面や技術協力を深めていくことを再確認した」としています。

民主活動家処刑の衝撃

7月25日には、民主活動家4人に対する死刑が執行され世界を震撼させました。罪状はテロ行為に関わったなどというもので、ミャンマーでは久々の死刑執行でした。死刑が執行されたのはNLD(国民民主連盟)の元国会議員で、スーチー氏の側近だったピョーゼヤートー氏や、民主活動家として有名なチョーミンユ氏など4人だということです。

つまり、この1カ月間に、フライン体制の国軍は、より独裁的な性格を強め、とりわけスーチー氏率いるNLDへの弾圧を強めています。また、同時に中国とロシアに接近しているようです。

日本としては、今後のミャンマー外交をどうしたらいいのか、非常に難しい選択となってきました。ミャンマーに対する日本外交は、どう考えても行き詰まっているからです。NLDと国軍が和解したことで2015年に民主体制が確立して以来、日本からは多くの企業がミャンマーに進出しました。現在でも数百社という日本企業が残っています。事実上、内戦状態となった現在、その経済的な活動は非常に限定されています。

また、民主化後に投資が増えたとはいえ、それ以前から日本政府はミャンマー国軍とは関係を築いており、21年のクーデターで民主制が壊された後も、国軍との関係を保っているのは事実です。一方で、国軍からもNLDからも「ミャンマー人ではない」とされて厳しい差別を受けているロヒンギャの人々に対する人道支援については、日本はこの間ずっと模索を続けてきましたが事態は改善していません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アストラゼネカ、30年までに売上高800億ドル 2

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

IMF、英国の総選挙前減税に警鐘 成長予想は引き上

ワールド

シンガポール航空機かバンコクに緊急着陸、乱気流で乗
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story