コラム

維新が全国政党になるためのカギは地方政策

2023年06月07日(水)11時30分

日本維新の会の地方政策は大きな問題を抱えている(画像はイメージ写真) maruco/iStock.

<地方の視点で改革を打ち出せるか、実行可能な政策を示せるか>

4月の統一地方選で予想をはるかに超える善戦をした維新の会は、この後、もしかしたら今年のどこかの時点で実施される解散総選挙では、全国レベルで候補を用意する構えです。では、維新の会が本当に全国で勝てるのか、そして全国政党となって例えば連立政権などの軸になれるのかというと、そこには大きな問題があります。

それは、地方政策が確立していないという問題です。

これは、維新の会が大都市圏以外の選挙区でも勝てるのかという問題だけではありません。実際に国政において主要な勢力となった際に、この国をどのような方向に持っていくのかという重要な政治姿勢の問題でもあります。

維新の会としては、自分たちには地方政策はあり、既に公表しているという姿勢です。具体的には、(1)道州制を実施し、さらに自治体の統合を行う、(2)消費税の徴税権を地方に移管するなど地方の自立を促す、(3)規制改革を行って地方経済を活性化する、という3つの軸はあるようで、この点についての姿勢はとりあえず一貫しています。

問題は2つあります。

1つは、維新勢力の原点は都市の納税者の反乱だということです。大阪の維新にしても、東京の元「みんなの党」勢力にしても、どちらも「都市型の小さな政府論」が出発点です。つまり、都市住民の多くが、納税に見合う行政サービスの見返りがないことへの不満を抱えており、これに対して大胆な歳出カットを通じて、既得権益を廃止する政策が歓迎されたのでした。

大阪都構想も、基本的には府と市の合併による二重行政の廃止により、リストラ効果を狙うものでしたし、その他にも、一部の受益者向けの福祉や、文化政策の予算などをカットする政策が採られたのも、同じ理由です。

都市部偏重では支持は広がらない

仮に維新が全国に進出する場合、こうした都市の納税者の視点と、地方の視点をどう組み合わせるのか、これが大きな問題になります。都市の納税者、特に維新の支持者からすると、自分たちの納めた税金が地方にバラまかれることは許せないはずです。

そう考えると、当然地方の行政におけるコストカットを、より強烈に進める必要が出てきます。問題は、本当にそのようなカットができるのかということです。難しい例としては、食料安保、離島防衛、生態系保全など、国の根幹を成す部分に関しては、経費削減にも限界があるという問題があります。

規制緩和をしたからといって、ベンチャー企業がいきなり地方に分散するとも思えません。そこには一定程度のインフラ整備が必要であり、そうなると先行投資的なコストは必要です。とにかく、都構想(大阪維新)、官公労リストラ(元みんなの党)などの「破壊してコストカット」という政策だけでは、地方行政は成り立ちません。

維新の場合、仮に全国政党になってしまうと、この問題、つまり都市の富を地方にバラまいてきたことを「切る」のかどうかという選択が、どうしても突きつけられます。現時点では、この点に関する維新の姿勢はまだまだ曖昧だと思います。これでは、全国政党として全国から信頼を得るのは難しいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス

ビジネス

中国4月経済指標、鉱工業生産が予想以上に加速 小売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story