コラム

新型コロナを予言?米政府「的中シナリオ」が占う大統領選

2020年03月24日(火)16時00分

千載一遇の「チャンス」を逃したトランプ JONATHAN ERNSTーREUTERS

<リークされた米保健当局の想定演習が現実に。混乱するアメリカ社会で国民が求めるリーダーは誰か>

米政府は2019年1〜8月に、ある演習を実施した。「クリムゾン・コンテイジョン」というコードネームで呼ばれたこの演習は、中国で発生した新型呼吸器系ウイルスが航空機の乗客によって世界中に瞬時に拡散されるという、恐ろしいシナリオだった。

「アメリカではシカゴで最初に感染者が確認され、その47日後にWHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的大流行)を宣言した。だが、対応は遅過ぎた。米国内の感染者は1億1100万人に上ると予測され、770万人が入院し、58万6000人が死亡するとみられた」

米保健福祉省は、今月リークされたその演習の報告書で、治療法がないウイルスと生死を懸けて闘うには、連邦政府は資金も準備も調整も「不十分」であることが分かったとしていた。演習は学校の休校をめぐって連邦政府と地方の足並みがそろわず、ウイルスとの闘いに必要な医療設備も十分に用意できないことを露呈した。

このシナリオが今、ほぼ現実のものになっている。アメリカの街は不気味なほど静かで、学校は休校になり、バーやレストランは営業を停止した。国民は有能な政府がいかに重要であるかを痛感している。

トランプ米大統領は、多くの前任者にない「チャンス」を手にしていた。パンデミックに真正面から立ち向かえば、大きく株を上げられたはずだ。ところが彼は危機の深刻さを見くびり、国を苦境に追い込んだ。

アメリカと韓国は、いずれも国内初の新型コロナウイルス感染者を1月20日頃に確認した。韓国では既に感染拡大のピークが過ぎたが、アメリカは危機への備えを始めたばかり。韓国に先見の明があったというより、アメリカに能力が欠けている。

危機は人の本質をあぶり出す。いまアメリカが目の当たりにしているのは、大統領の器の小ささだ。3月6日に米疾病対策センター(CDC)を訪れたトランプは、選挙運動用のキャップをかぶっていた。ウイルスの犠牲者が多いワシントン州の知事を「ヘビ野郎」と呼び、ウイルス検査について「必要な人は誰でも受けられる」と嘘を言った。第2次大戦以降で最大の危機より、自分の再選を気にしていた。

1カ月ほど前のトランプは、楽に再選を果たせそうだった。民主党の対抗馬はリベラル過ぎるという懸念が党内にもあるバーニー・サンダースになりそうだったし、株式市場は好調で、失業率は50年ぶりの低水準だった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買

ビジネス

中国外貨準備、4月は予想以上に減少 金保有は増加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story