コラム

トランプ旋風が終息するために必要な「ある条件」とは

2020年12月18日(金)17時32分

共和党は「トランプ主義」の政党に(選挙戦中のトランプ支持者)CARLOS BARRIAーREUTERS

<退陣が迫るトランプ政権だが、それだけでアメリカを席巻したドナルド主義が収まることはない>

私はこの夏、ジョージタウン大学で担当している「大統領への準備」という授業で、学生たちに一つの荒唐無稽なシナリオを披露した。

それは真剣な予測というより、議論のきっかけをつくることが目的だった。私は大真面目なふりをして学生たちにこう話した──大統領選に敗れたドナルド・トランプは2021年1月20日、ジョー・バイデンの大統領就任式を欠席し、同じ時間に別の場所で大規模集会を開きメディアの注目を奪おうとするだろう、と。この「ニセ予測」が、いまシュールな現実になろうとしている。

もしトランプが2024年の大統領選に出馬すれば、共和党内で太刀打ちできる対立候補は現時点で見当たらない。共和党支持者の大多数は、今回の大統領選の正当な勝者はトランプだと信じて疑わないらしい。

2016年の前回大統領選の共和党予備選で「次点」だったテッド・クルーズ上院議員もトランプへの恭順の意を示し、今回の選挙結果を覆すための法廷闘争で、弁護士として連邦最高裁でトランプ側の代理人を務めることに同意した。

アメリカは大統領制民主主義を生んだ国であり、世界で最も円滑で平和的でクリーンな政権移行のプロセスを誇りにしてきた。しかし、ハーバード大学で法学を学び、連邦最高裁長官の下で調査官を務めた経験を持つクルーズが、その伝統を破壊する旗振り役になっている。共和党は、トランプ主義にすっかり支配されているのだ。

共和党下院議員の中で、バイデンを勝者と認めている人はわずか27人。大統領選出馬を目指す共和党政治家は、共和党から爪はじきにされる覚悟がない限り、バイデンの勝利を公に認めることはできないのである。

トランプは共和党の資金調達の大半を牛耳っていて、党内の支持率でもほかの政治家を圧倒している。少なくとも差し当たり、共和党で成功したい政治家はトランプへの忠誠を誓うほかないのが現実だ。もはや共和党を動かす政策やイデオロギーは存在せず、全てがトランプを中心に回っている。

こうした「トランプ主義」はいつになれば消えていくのか。共和党が不満を主要な原動力にする政党へと変質した背景にあるのがトランプ主義だ。

トランプ主義は、非大学卒の白人(主に男性)の地位と威信を取り戻し、マイノリティーの台頭とグローバル化の進展によりこの層の優位が揺らぐ以前の時代へ回帰することを目指す。核にあるのは、エリートへの憎悪と、変化の速い世界への不安だ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ

ビジネス

再び円買い介入観測、2日早朝に推計3兆円超 今週計

ワールド

EUのグリーンウォッシュ調査、エールフランスやKL

ワールド

中南米の24年成長率予想は1.4%、外需低迷で緩や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story