最新記事

労働

あなたのその仕事、意味ありませんよ!

Bullshit Jobs

2018年8月17日(金)14時40分
サミュエル・アール

デジタルは進化するが労働時間は減らない MOODBOARD-CULTURA/GETTY IMAGES

<技術の進歩で人は仕事から解放されるはずなのに、「おバカ仕事」で労働時間は増える一方だ>

ホアキン・ガルシアはスペインの公務員で、少なくとも6年間は仕事をせずに給料をもらっていた。南部カディス市の水道局で働いていたが、上司が代わって閑職に追いやられたことがきっかけだ。

幻滅し、落ち込んだガルシアは、配置転換になったと言って同僚をだまし、家に籠もって読書三昧の日々を送っていた。嘘がばれたのは、勤続20年を迎えた彼を表彰する話が出た時のこと。それまでの間、彼の不在には誰も気付かなかった。

16年にガルシアに罰金刑が下され、話題になったこの一件は現代における「仕事」の意味を問い直すものだ。仕事には目的があり、社会で必要とされる機能を果たす行為と考えられてきた。だがガルシアの仕事には目的も役割もなく、やらずにいても誰も気付かないものだった。

世界的ベストセラー『負債論──貨幣と暴力の5000年』(邦訳・以文社)で有名な人類学者デービッド・グレイバーは、今年5月に新著『おバカ仕事の理論』を刊行。こうした無意味な仕事の存在は珍しいことではなく、今の時代にはよく見られることだと論じている。

経済が進化し、技術が洗練の度合いを増していけば、人はあまり働かなくてもよくなるはずだった。しかし実際には「経済活動が無意味な仕事を生み出す巨大エンジン」と化し、グレイバーによれば、やるべき仕事が減れば減るほど、人はより長く働くようになっている。

その結果が無駄な仕事、グレイバーの言う「おバカ仕事」の蔓延だ。おバカ仕事(bullshit jobs)はクソ仕事(shit jobs)とは違う。後者はゴミの収集など、世の中に必要なのに低賃金で報われない仕事を指す。対しておバカ仕事は、たいてい高賃金で社会的な評価も高く、IT化の進んだどこの職場にもあるが、社会には何の貢献もしていない仕事を指す。

意味ある仕事ほど低賃金

グレイバーは英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授で、11年にニューヨークで始まったウォール街占拠運動の「われらは99%派」というスーガンの提唱者として知られる。今回の著書は大評判になった13年のエッセー「おバカ仕事という現象」に加筆したものだ。この文章は掲載サイトがクラッシュするほどの人気になり、数十の言語に翻訳された。グレイバーの元には、どうでもいい仕事に関する笑えて怒れる何百もの証言が寄せられたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中