最新記事

メンタルヘルス

欧米で注目を集める「歩くだけ」心理療法、ウォーキング・セラピーとは何か

2020年3月10日(火)17時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

幸せに向かって歩く

先ほど、コルチゾールとアドレナリンが頻繁かつ多量に分泌される危険性について触れましたが、対抗手段もあります。「ラブドラッグ」の異名を持つオキシトシン。母子の愛着やボディタッチ、親密さ、笑顔、心地よさを感じるさまざまな行動(ウォーキングを含む)と関連の深いホルモンです。ウォーキングをすると、「幸福ホルモン」と言われるエンドルフィンとともに、このオキシトシンが分泌されて体内をめぐるため、すぐに効果を感じることができます。

実際、2015年にスタンフォード大学ウッズ環境研究所(カリフォルニア州)が行った調査では、自然の中を90分間歩いた人は、うつに関連する脳の部位の活動が減少していました。つまり、自然の中で体を動かすことで気分がよくなり、ストレスが軽減し、物事をクリアに考えたり、思考と感情を整理する時間と余裕が生まれるのです。

深刻な問題を抱えているときに、ウォーキングが解決の突破口となるケースは多々あります。判断に迷ったときに「散歩に行こう!」と思い立ち、いい解決策が見つかったり、頭がすっきりした経験のある人は多いのではないでしょうか。

歩くだけですべての問題が解決する?

先にも述べたように、この本が提示するのは手っ取り早い処方箋ではありません。スーパーまで徒歩で往復するだけで、悩みが吹き飛ぶわけではないのです。必要なのは体を動かすこと。それも真剣に。近隣の山に登れとは(今の時点では)言いませんが、脳を活性化したいと本気で願うなら、どんな天候であれ外に出て、自然の中を歩く経験にどっぷりと浸かる必要があります。

ウォーキングをすると決めたら、多忙な日々の中で十分な時間を確保する必要もあります。ウォーキングの前と最中、そして終了後の感覚に意識的に注目するうちに、自分の感情に「名前をつける」ことに徐々に慣れていきます。「幸せ」「心配」「憂うつ」「悲しい」といった具合に感情を言語化する訓練を通じて、頭と体がより効果的に思考や感情をコントロールできるようになっていきます。

こうした訓練は、無意識のうちに内面にため込んでいた感情や、弱いと思われたくなくて隠してきた気持ちを表出させる後押しにもなります。また、気持ちに関する語彙を増やし、自信と自尊心を高め、心身のストレスを和らげ、解放感と安心感という大切な感情をもたらしてくれる効果もあります。その習慣がない人にとっては、慣れるのに少々時間がかかるかもしれませんが、気持ちを言語化するのは恥ずかしい行為ではありません。

体を動かすと、思考がクリアになります。とりわけ自然の中でのウォーキングには、なくしてしまった自然との精神的なつながりを再構築する力があります。

※抜粋第2回:ウォーキングは、脳を活性化させ、ストレスを低下させ、つながりを感じさせる
※抜粋第3回:ウォーキング・セラピーは「どこでもいい」「ただ歩けばいい」わけではない


ウォーキング・セラピー
 ストレス・不安・うつ・悪習慣を自分で断ち切る
 ジョナサン・ホーバン 著
 井口景子 訳
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発、米物価指標を前に方向感欠く 個別物

ビジネス

ソニーGの今期、5.5%の営業増益見通し 1株を5

ビジネス

出光、6.5%・700億円上限に自社株買い 全株消

ビジネス

シャープ、堺ディスプレイプロダクト堺工場の生産を停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中