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インタビュー

必ず「寝落ち」できる物語──異色の短編作家が紡ぐ5分で眠くなるストーリーの秘密とは

2018年07月27日(金)17時15分
ローラ・ベネット

    ――「眠りを誘う物語」を書くようになったきっかけは。

    私はもともと旅行ライターで、特に辺ぴな場所での睡眠体験を短編にしてきた。変わった場所で眠るのが私の仕事だ。

    ――例えばどんな場所?

    木からぶら下げたテントとか、洞窟や氷河。

    ――そこからなぜ「人を眠らせる物語」を書くことに?

    ある旅行雑誌でシベリア鉄道の旅をテーマにした短編を書いたら、カームの共同創業者のマイケル(・アクトン・スミス)が連絡してきて、「この物語、最高だね。次はうちのために眠りを誘う物語を書いてくれないか」と聞かれた。

    最初はいぶかしく思った。「はあ? 読者が眠くなる物語ってどういう意味?」ってね。作家は普通、読者が一睡もせずに最後まで読み切ってくれる物語を書きたいと思うのに、マイケルの依頼は正反対だった。

    ――腹が立った?

    そうでもなかった。私はちょっと変わったことが好きだから。むしろそのアイデアをすっかり気に入ってしまった。そこでまず、子供のときはどうやって眠りに落ちたか考えてみた。そして大人に読み聞かせをしてもらったことを思い出し、これなら大人にも効果があるに違いないと思った。

    ――眠りを誘う物語を書くのと、例えば旅行雑誌のために短編を書くのとでは何が違うのか。

    旅行雑誌向けの物語では、ドラマチックな場所を出発点にして、読者の心を一気につかむ。でも眠くなる物語で肝心なのは、読者をリラックスさせること。だからエキサイティングなことは一切起きない。

    例えば、旅行雑誌向けにはアフリカでのトレッキング中にライオンに遭遇した物語を書く。ライオンが登場する瞬間はとてもドラマチックなシーンになる。でも眠りを誘う物語では、そんなことを書いてはダメ。ライオンなんて想像しただけで、興奮して目が冴えてしまう人がいるから。

    ――眠りを誘うくらい退屈だけれど、腹立たしいほど退屈ではない物語にするために気を付けていることはある?

    よく、「あなたの物語をプリントして送ってもらえませんか」というメールをもらう。「最後にどうなるのかとても気になるのだけれど、いつもその前に寝落ちしてしまうんです」ってね。「寝落ちしてしまう」と言われるなんて、眠りを誘う物語の作家冥利に尽きる。

    私は基本的に「これじゃ退屈過ぎるかな?」という心配はしない。むしろ、時々読み返して、ワクワクし過ぎる部分をカットする。例えば最近、マダガスカルのジャングルを歩いていたら、とても美しいパイソンに遭遇するという短編を書いた。でも、あとから「ダメダメ、これじゃ怖くて眠れなくなってしまう人がいるかもしれない」と思い直してカットした。旅行記なら最高の展開だけど。

    ――眠れないとき、自分が書いた物語を聴くこともある?

    私が初めて書いた「眠りを誘う物語」の録音を、カームのスタッフが公開前に送ってくれた。でも、最後まで聴き終わる前に眠ってしまった。自分の書いた物語なのにね。私にメールをくれる人は皆、5~10分で眠りに
    落ちるみたい。

    ――どのくらいの頻度で眠りを誘う物語を書いているのか。

    1カ月に1本のペース。私の書いた物語はとても人気らしいので定期的に依頼がくる。

    ――旅行をしているとき、「この経験は眠りを誘う物語にぴったり」と思うときはあるか。

    いつもそう思っている。リラックスできて、ゆっくり何かを観察したり考えたりできる場所にいるときは、いつも「いいネタになる」と思う。

    ©2018 The Slate Group

    [2018年7月10日号掲載]

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