最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

3.11から6年、セキュリティ専門家が語る原発サイバー攻撃のリアリティ

2017年3月9日(木)18時15分
山田敏弘(ジャーナリスト)

米NSA(国家安全保障局)は2013年末の段階で、世界89カ国で8万5000台ほどのコンピューターまたはシステムに、監視プログラムなどを埋め込んで支配下に置いていたことが判明している。そうした作戦を担当しているのが、NSAの先鋭部隊で、米サイバー作戦の最前線にいるTAO(テイラード・アクセス・オペレーションズ)と呼ばれるチームだ。またTAOの中にはさらに能力の高い凄腕たちがいて、彼らはROC(リモート・オペレーションズ・センター)と呼ばれている。こうしたチームの詳細は著書に当たってもらいたい。

つまり、日本のインフラにアメリカによって監視などのプログラムが埋め込まれるのは、十分にあり得る話だ。ただし、日本だけが特別ではない。そもそもNSAはスノーデンがリークした機密情報によって、世界中の首脳などを監視していたことが明らかになっているし、世界中で電子メールなどを監視できる大規模な監視プログラムの存在も明らかになっている。

もちろん、だからと言って福島の原発事故とサイバー攻撃を関連付けるのは無理がある。原発事故へのサイバー攻撃が陰謀論として語られる際には、アメリカとイスラエルが共同でイランの核燃料施設をサイバー攻撃で破壊した通称「スタックスネット」が引き合いに出される。

スタックスネットは2009年にイランのナタンズ核燃料施設で遠心分離機を破壊(一部、爆破も起きたとされる)したマルウェア(悪意ある不正なプログラム)だ。このマルウェアは確かに、イランだけでなく世界中に感染が広がった事実がある。実際に、日本でも感染は確認された。

【参考記事】サイバー戦争で暗躍する「サイバー武器商人」とは何者か

今回の著書『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』の取材で、著名なドイツ人セキュリティ専門家にインタビューしたが、その中では日本の原発についても話を聞いている。このドイツ人、ラルフ・ラングナーは、スタックスネットをいち早く解読し、その存在を世界に暴露した専門家の一人として知られる。

ラングナーは以前、「TED」の講演会に登場してスタックスネットについて解説したことがある。その動画は今もネット上で視聴することが可能だが、そのコメント欄には、福島の原発事故とスタックスネットの関連を疑う趣旨のコメントが書き込まれていた。

著者がそのことをラングナーにぶつけると、ラングナーは「(そういうコメントは)笑えるし、奇妙だよ」と、一笑に付した。そして、福島の事故とスタックスネットは全く無関係だと断言した。そして、スタックスネットはそもそも「ナタンズにある特定の2つの装置を狙ってプログラムされていたために、それ以外に何か悪さをすることはない」と話していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替、従来より物価に影響しやすいリスクを意識=植田

ビジネス

テスラ、独工場操業を1日停止 地元は工場拡張に反対

ワールド

イランとの核問題協議、IAEA事務局長が早期合意に

ワールド

インド総選挙、3回目の投票実施 モディ首相の出身地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中