最新記事

キャリア

「準備はどう?」と質問されて「順調です」と答えてはいけない

2017年6月12日(月)10時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

だが実際のところ、質問は、大発見やイノベーションの「可能性」「きっかけ」を与えてくれるにすぎない。疑問が浮かんだだけではノーベル賞を取れないし、いくら「なぜ?」という質問を繰り返したところで、問題を解決するアイデアがなければイノベーションは起きない。

これが「質問の限界」だとヴァンス博士は言う。


 そしてこの限界は、「質問」と「答え」の力関係の宿命だ。「質問」はトピックを提供するだけであって、そこから論点を決定し、その後の行動や思考を形成していくのは「答え」と決まっている。
 だから質問がどんなにすばらしかったとしても、それは夢のような可能性を提案してくれるだけであって...(略)...良い質問も、答えのための優秀なお膳立てに過ぎず、その可能性を生かすも殺すも、あくまでも相手の答え方次第と言わざるを得ない。(30~31ページ)

 

質問から「リープ」し、価値ある情報を追加する

こうしたことは、日常的なコミュニケーションにおいても言える。どんなに質問力を磨いて、「相手の話を引き出すテクニック」を駆使しても、相手が単純な答えしか返してくれなければ会話は広がらない。つまり、会話の主導権を握っているのは、いつでも答えなのだ。

言い換えれば、どんな質問であっても答え方がうまければ、不毛に終わったかもしれない会話を、建設的で有意義なコミュニケーションへと変えることができる。

相手が求めている情報を適切に与えるだけでなく、知識を深めたり、人間関係を良くしたり、パフォーマンスを向上させたりするのも、すべて答え方次第だ。さらに、巧みな答え方によって自分の価値を高め、評価を上げることもできる。それが、成功への扉を開いてくれるという。

そうした答え方を、ヴァンス博士は「質問をリープする戦術」と呼ぶ。リープ(leap)は「跳ねる」「跳躍する」という意味で、要するに、ただ質問されたことだけに答えるのではなく、自分と相手の目的にとって価値ある情報を追加して答えるのだ。

【参考記事】1年間すべてに「イエス」と言った女性から日本人が学べること

東アジアの人は「忠実すぎる答え」をしがち

もちろん、まずは相手が聞きたいことを答えるのが大前提だ。しかし、相手と深い関係を築いたり、相手に自分をアピールしたりするには、質問に忠実に答えるだけでは足りない。会話が盛り上がらず、自分の本当に伝えたいことも切り出せずに、逆効果に働いてしまうこともある。

実は、東アジアの人々は、とくに「質問に忠実すぎる答え」をしがちだという。ヴァンス博士がまとめた統計によると、同じ質問に対して東アジア人の答えは、それ以外の人たちの答えよりも単語数が47%も少なかったそうだ。

「質問に忠実すぎる答え」とは、たとえば上司から「プレゼンの準備はどう?」と聞かれて「順調です」とだけ答えるようなもの。これでは、質問が与えてくれた「可能性」「きっかけ」を無視したも同然。何も変わらず、ゼロのままだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は予想上回る 見通し

ビジネス

バークシャー株主総会、気候変動・中国巡る提案など否

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ワールド

ロンドンなどの市長選で労働党勝利、スナク政権に新た
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中