最新記事

日本人が知らないAI最前線

AIを使えば、かなりの精度で自殺を予測できる

2017年7月11日(火)16時45分
マシュー・ハットソン

RICHARD WAREHAM FOTOGRAFIE/GETTY IMAGES


<ニューズウィーク日本版7月11日発売号(2017年7月18日号)「日本人が知らないAI最前線」特集。人類の常識を覆すこの新技術とどう向き合うか? 物流、金融、医療、家庭......あらゆる分野で活用が進む人工知能を取り上げている。その1つ、自殺予測に関する記事を転載する>

アメリカで毎年、自殺で亡くなる人は4万2000人以上。99年~14年で、自殺率は24%増加している。長年のデータや学説の積み重ねでわれわれは自殺の防止法、少なくとも予測法を理解しつつあると思いたいが、最新研究によれば自殺予測の科学はほとんど成果がない。よく言われる自殺の兆候も、茶葉占い程度にしか当てにならない。

でも希望はある。AIによる機械学習のアルゴリズムが自殺予測の精度を劇的に向上させることが分かったのだ。アメリカ心理学会の「心理学紀要」2月号に掲載されたその研究は、遺伝子や精神疾患、虐待など3428の危険因子を扱っている過去50年の論文365本をメタ分析(複数の研究の分析結果の分析)。自殺願望や自殺を予測する上で、1つの危険因子が臨床的に有意であることはない、との結論が出た。

鬱状態の人は自殺する可能性が高いことを考えれば、驚くべき結果かもしれない。だが留意すべき点がある。第1に、これらは予測的研究であること。研究期間は平均約10年で、いま鬱病の人が今後10年のうちに自殺する可能性が高いかどうかという話だ。第2に、臨床的な有意性は統計的な有意性と同じではない。つまり自殺と危険因子の相関関係は数字的には信頼できるが、それに基づいて行動するには弱過ぎる。

難点は治療にどう生かせるか

医師なら、近日中の自殺につながるような自殺願望を予測したいだろうが、それに関する研究はない。自殺のリスクが高い人を大勢集めなければならないからだ。しかも失業などの危険因子を特定し、多くの人が1週間以内に自殺を試みるという前提条件が必要。そうすれば自殺を試みた人がその週に失業した確率が高いかどうか調べられる。

「これまでこうした研究がないことを多くの研究者が認識していなかった」と、論文の共同執筆者でフロリダ州立大学の心理学者、ジェシカ・リベイロは言う。彼女たちの研究で、自殺の予兆となる要因を特定する能力が向上していないことも判明した。自殺は多くの変数が絡み合った複雑なものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ一時初の4万ドル台、利下げ観測が

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、4月輸入物価が約2年ぶりの

ビジネス

中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性=米N

ワールド

G7、ロシア凍結資産活用巡るEUの方針支持へ 財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中