最新記事

アメリカ経済

たとえ株価が下がろうとFRBは超低金利から中間層を救うべきだ

2018年2月14日(水)20時00分
トッド・スタイン(米投資銀行ブレイサイド・キャピタル社長)

株価急落後も、利上げを継続を示唆するパウエルFRB新議長 Aaron P. Bernstein-REUTERS

<短期的に景気が後退するとしても低金利政策によるバブルを軟着陸させたほうがいい>

2月1日以来、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数は5%近く下げ、数年ぶりの大幅下落を記録した。

不動産関連株はさらに大きく下げた。最大規模の米不動産インデックスファンドは2月1日以来6%下げ、年初来10%の下落となった。

こうした大幅急落はほんの序章にすぎない。投資家はFRB(米連邦準備理事会)の新議長に就任したジェローム・パウエルが利上げペースを維持するか加速するとみており、株や不動産など、金利上昇から悪影響を受ける資産から資金を引き揚げている。

一部の投資家や市場の専門家からは、景気後退を引き起こさないよう利上げペースの緩和を求める声もあがっている。だがパウエルはそんな声を無視すべきだ。10年続いた超低金利政策は、貯金に老後を頼る中産階級を苦しめ、市場をゆがめた。

金利を急に従来の水準に戻せば、株価の下落や短期的な景気後退を引き起こすかもしれない。だがそれは、アメリカに残る自由な企業精神と自助の精神を守る唯一の方法だ。

ゼロ金利政策の巻き添え

2008年秋の金融危機に際して、FRBは融資と投資の刺激策として金利をゼロに引き下げた。景気後退のさなかの急激な利下げは筋が通っている。だが、その後に起きたことは前代未聞だった。09年に景気後退は一段落したのに、FRBは2015年12月までゼロ金利政策を継続したのだ。

FRBの決定は巻き添え被害をもたらした。特に大きな損失を被ったのはベビーブーム世代だ。高齢者や退職間近の人々は従来、資産を譲渡性預金(CD)や国債といった安全資産に預けてきた。

だがこれらの資産は近年、ほとんど利息がつかない。1年物CDの金利は現在約1.8%。インフレ率が1.8%前後で推移していることからすれば、実質金利はゼロだ。多くのエコノミストは、政府のモデルがインフレ率を過小評価していると感じている。つまりCDでは実質的に資産が目減りしている可能性もある。

一方、10年物米国債の利回りは現在約2.8%で、2013年以降利回りが3%を超えたことがない。

こうした金融商品のリターンがあまりにも低いため、退職者には2つの選択肢しかなくなった。元金を取り崩しながら生活するか、高リターンを求めて株やジャンク債のようにリスクの高い投資に手を出すか。

先週の株価急落は、強気相場が永遠に続かないことを示している。株式は本質的に変動しやすく、株価は過去最高水準に近い。著名投資家ウォーレン・バフェットはかなり前から人々に警告してきた。「短期間で株価が50%下落して困る人は、株を買うべきではない」

虎の子の蓄えが半分に目減りした退職者の心境は察するに余りある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、4月は49.4 1年4カ

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想下回る 賃金伸び鈍化

ワールド

欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中