最新記事

米朝関係

トランプが金正恩と会ってはならない3つの理由

2018年3月26日(月)10時00分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所アジア担当上級副所長)

会談は体制の正当性を認めさせたい金正恩に資するだけ(写真は2月の軍事パレード) KCNA/REUTERS

<米朝首脳会談は「ゲームチェンジャー」にあらず...トランプは北朝鮮の思う壺にはまるだけの恐れが>

実に愚かな考え――16年5月、米大統領選の共和党候補指名を確実にしたドナルド・トランプが北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と「話をすることに異存はない」と発言したとき、私はそう指摘した。今に至っても、米朝首脳会談の機は熟しているとは言えない。その3つの理由を再び指摘しよう。

第1に、会談は倫理的に受け入れ難い。金は恐るべき体制の支配者だ。北朝鮮では、何万もの人が強制収容所に閉じ込められ、何百万もの人々が組織的な抑圧にあえいでいる。

72年のリチャード・ニクソン米大統領の電撃訪中と毛沢東との会談、45年の米英首脳とスターリンとのヤルタ会談という前例がある? いや、そんな比較は当てはまらない。

アメリカは第二次大戦中、ヒトラーを打ち負かすためにソ連の人的資源を必要とし、冷戦時代には極東地域などで軍事的優位を拡大するソ連の勢いをそぐために中国の人的資源を必要とした。この2つの目標は達成が必須かつ可能であり、当時のソ連または中国の利害と一致し、彼らと手を組むことはより大きな悪を打倒する助けになった。

一方、米朝首脳会談によって北朝鮮に核を放棄させられるかは分からない。北朝鮮は非核化の可能性をちらつかせるものの、米朝首脳会談の議題とする明確な意思は示していない。

第2に、米朝首脳会談が資するのは北朝鮮の長期的目標であり、アメリカの目的ではない。

北朝鮮の指導者と会談する大胆さを持った米大統領は過去にいなかったと、トランプは誇示する。しかし北朝鮮の誘いがなかったわけではない。00年にはビル・クリントン大統領を招待し、ジョージ・W・ブッシュ政権時代には数回申し出をした。

北朝鮮は90年代以来、核武装によってアメリカに体制の正統性を認めさせた、と示そうとしてきた。念願達成に向けてようやく今、米大統領をおびき寄せることに成功したのだ。

「朝鮮半島非核化」の意味

第3に、金は自分の行動の意味を認識している。一方、トランプはどうか。制裁のおかげで北朝鮮は非核化交渉に追い込まれたとトランプは胸を張る。とはいえ、それは3月5日に平壌を訪れた韓国特使団からの伝言の拡大解釈にすぎない。

北朝鮮に対して制裁を強化し続けたトランプ政権の功績は認めるし、マイク・ペンス米副大統領の声明にあるとおり、非核化に向けた具体的な行動がない限りは圧力を維持すべきだ。

それでも、大きな勝利を手にするのは金のほうだろう。必要なのは、朝鮮戦争の休戦協定を和平協定に転換する交渉をするなら、朝鮮半島の非核化について話し合うつもりがあるとトランプを納得させることだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中