最新記事

人体

心肺停止後、5分は意識がある!? 最新の脳神経学で分かった「死」

2018年3月6日(火)19時30分
松丸さとみ

心肺停止後、5分は意識がある!? haydenbird-iStock

心臓が停止後も脳に動き

人は心臓が止まった後、3〜5分は脳が活動しており、血流が再び流れれば蘇生できる可能性がある、ということが、最新の調査で明らかになった。

調査したのは、ドイツのシャリテ・ベルリン医科大学のイェンス・ドライヤー博士が率いる神経学者らのチームで、結果は神経科学誌「アナルズ・オブ・ニューロロジー」に発表された。

ドイツのベルリンと米国オハイオ州で、脳に大きな損傷を受けた9人について、亡くなる際の脳内の電気的な信号を調べた。9人とも家族などから「心肺機能の蘇生措置をしないで」という意思が示された患者だ。

英紙インディペンデントによると、今回の調査で、心臓が止まったり生命の兆しが見られなくなったりした後でも、脳内では3〜5分間ほど脳細胞や神経細胞が活動していることが分かった。その後、「拡延性抑制」と呼ばれる電気的な波による活動が脳内で起こる。調査チームによると、これは脳が死亡に際して「シャットダウン」する前の最後の瞬間に起こる短い活動だという。

蘇生できる可能性が残っている

本誌米国版は、通常は「血流が止まれば、細胞に酸素が運ばれなくなる。細胞が機能するために必要なエネルギーを作り出すには酸素が必要で、このエネルギーがなくれば細胞は死ぬ」のは既知の事実である、と指摘。

しかし今回の調査では、脳内の酸素レベルが低下しても、貯蔵されていたエネルギーを利用して脳細胞が数分間活動していたというのだ。そしてドライヤー博士によると、充電が切れたバッテリーのように、この間に血流が戻れば脳が再び蘇生できる可能性があるかもしれないという。ただし博士は本誌米国版にメールで、「この状態で脳がどれほど生存し続けられるかは今のところ不明」だと伝えた。

また、問題もある。英紙エクスプレスによるとドライヤー博士は、この脳波が通常の脳波計では記録されないと述べているという。また、アナルズ・オブ・ニューロロジーの論文によると、現在は臓器移植のために臓器が取り出されるのは心肺機能が停止して死亡が宣告されから2〜10分後だ。しかし今回の調査結果から判断すると、この時点では脳に血流が戻ればその人は蘇生できる可能性が残っているということになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中