最新記事

報道

フィリピン当局、元CNN著名記者を名誉棄損で逮捕 批判的なメディアへの強硬姿勢明らかに

2019年2月14日(木)17時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)


釈放後に報道陣の質問に答えるマリア・レッサさん ABS-CBN News / YouTube

名誉棄損の対象は2012年に掲載の記事

今回のレッサさんの逮捕の直接容疑は2012年3月に実業家のウィルフレット・ケン氏と当時弾劾裁判にかけられていた最高裁のレナト・コロナ判事の不適切な関係を指摘した記事に関するものだ。

ケン氏は2014年に当該記事のネットからの削除を要求するが、ラップラー側はこれを拒否。2017年、ケン氏はNBIに対してラップラーの当該記事に触れて「ラップラーはジャーナリズムの倫理に反している」と名誉棄損を訴えたのだった。

記事掲載時には発効していなかったサイバー犯罪法の「インターネット上の名誉棄損」を今回適用したことに関して、NBIのサイバー犯罪部門の責任者マヌエル・アルテ氏は「フィリピン・スター」紙に対して「インターネット上の名誉棄損が法律化された時点で当該記事を取り下げていれば、今回のような問題にはならなかった。しかし現在もその記事は掲載されている。つまり現在も法律に反しているということから捜査の対象になったということである」と説明している。

政権の圧力に屈しない姿勢に共感

CNNでマニラ、ジャカルタ支局長などを長く歴任したレッサさんは、2012年にニュースサイト「ラップラー」を創設。2016年6月に発足したドゥテルテ政権とは超法規的殺人を含む麻薬犯罪対策を巡って対立、「人権侵害である」と主張して政権批判の急先鋒となっていた。

このため自分や自らの政権に批判的なマスコミを嫌悪するドゥテルテ大統領側から「企業認可取り消し」「記者会見出席拒否」「脱税容疑」など数々の「妨害」をこれまで受けている。

しかしレッサさんは「私たちラップラーは10年後に『私たちは当時できる限りのことを全力でやった』と言えるような活動をしたい。私たちは逃げも隠れもしない」(2018年11月)との強い姿勢で圧力に屈しない覚悟をみせている。

14日午前の釈放後、マスコミに対しレッサさんは「これで保釈金の支払いは6回目であり、そして今回は最も高い10万ペソだった」と司法当局の執拗な「圧力」に抗議の意を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中