最新記事

災害

歴史的大噴火から1年 ハワイ住民にとっての「ニューノーマル」

2019年4月9日(火)10時40分

約1年前に発生したキラウエア火山の大噴火で避難を余儀なくされていたハワイ島カポホの住民らが、変わり果てた「自宅」に帰還し始めている。写真は、敷地にココナツの木を植える住民。1日撮影(2019年 ロイター/Terray Sylvester)

ダリル・クリントンさんは昨年、何週間もずっとハワイ島にある友人宅のデッキの特等席からキラウエア火山を眺めていた。だが、地面の割れ目から噴き出た「溶岩爆弾」がポーチに飛んできて、足を失いかけてからはその地を離れた。

約1年前、キラウエア火山が歴史的な大噴火を起こし、大勢の住民が避難を余儀なくされ、700以上の家屋が破壊された。クリントンさんは1日、住宅地に続く仮設道路を再開したとのハワイ郡の発表を受け、この友人宅に戻るため車で向かった。

クリントンさんと隣人らは現在、ハワイの人たちが「キプカ」と呼ぶ、固くなった溶岩流に囲まれた土地にいる。

クリントンさんと最近戻ってきた他の住民らは、たとえそこが北米有数の活火山のふもとであろうとも、温暖な気候の中で美しい環境に囲まれ、安く生活できるので戻ってきたと口をそろえる。

「競争社会では生きたくない。ここではそんなことはない」と58歳のクリントンさんは言う。クリントンさんは2006年に家族と共に、ここカポホに移住してきた。そして電気やガスのない家を建て、庭園を始めた。

キラウエアは現在、「正常(ノーマル)」に戻っていると、米地質調査所(USGS)は3月26日に発表した。

「過去8カ月におけるキラウエア火山の活動に基づき、噴火活動が起きていないことから、USGSハワイ火山観測所はキラウエアの警戒レベルをノーマルに引き下げた」と、USGSの広報、ジャネット・バブ氏はメールで語った。

ニューノーマル

戻ってきた住民にとって、これは「ニューノーマル」と言える。皆がそれを心待ちにしているわけではない。

ポーリーンさんとエディさんのマクラーレン夫妻は、山火事で自宅に残されたすすを掃除していた。夫妻の自宅にも電気やガスは通っておらず、わずかな年金で暮らしており、約1.21ヘクタールの牧場に馬を放牧していた。生活は楽ではなく、噴火が昨年起きる前は自宅を売るつもりだった。現在、自宅の不動産価値はほぼなくなったと夫妻は考えている。

「結局、私たちが戻ってきたのは、他に行くところがどこにもなかったから」と、78歳のポーリーンさんは言う。「私たちはもうここから離れることはできないと思う」

ポーリーンさんによると、夫妻は米連邦緊急事態管理庁から4000ドル(約45万円)の住宅扶助のほか、山火事で燃えた牧場のフェンスの修理費として中小企業庁から9000ドルの支援を受けた。

ポーリーンさんは、次に噴火が起きるときにはもう死んでいるので怖くはないと話す。「次の停車駅はあの世ね」と、ポーリーンさんは足元の地面を指差しながら冗談を言った。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日

ワールド

米、イスラエルへ弾薬供与停止 戦闘開始後初=報道

ワールド

アングル:中国地方都市、財政ひっ迫で住宅購入補助金

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中