最新記事

インド

藁を燃やさず燃料に加工してインドの大気を救う

Clearing the Air

2019年6月20日(木)18時00分
ジュリアナ・ピニャタロ

A2P創設者のシンは農家が燃やしていた大量の藁を買い取る COURTESY OF SUKHMEET SINGH

<汚染の元凶となる藁を買い取り燃料に加工して農家も環境も守る新システム>

アジアで深刻な環境汚染の元凶になっているのが、藁(わら)だ。穀物農家は収穫の後、次の作付けに向けて小麦藁や稲藁を燃やす。畑をまっさらにするためには藁を焼き払うのが最も安上がりな方法だが、これがインドの首都ニューデリーのような都市で大規模な大気汚染を引き起こす。

その問題に取り組んでいるのが、インドの農業・エネルギー企業「A2Pエネルギーソリューション」の創設者の1人シュクミート・シンだ。農家から藁を購入し、それを燃料や動物のエサ、土壌改良剤として使用できるペレットに加工する。 同社によれば、これまでの活動で大気中への放出を防いだCO2の量は450トンを超える。本誌ジュリアナ・ピニャタロがシンに話を聞いた。

***


――達成したい究極の目標は?

インド北部では毎年9月と10月だけで3500万トンの藁が燃やされている。それを全て産業用のクリーンな燃料に変えたい。

――事業を思いついた訳は?

藁の焼却処理は、環境に深刻な影響を与えていた。18年の調査で、ニューデリーは世界で最も大気汚染が深刻な都市だった。ひどいときには大気中の汚染物質の量は、WHO(世界保健機関)の基準値の20倍にもなる。

この大気汚染のせいで、ニューデリーに住む子供たちの肺は、アメリカの子供より小さい。大気汚染による経済・医療コストは年間300億ドルと推定されており、インドの医療・教育予算を圧迫している。

――A2Pはこれにどう立ち向かっているのか。

藁からさまざまな製品を作っている。まずは「燃料」。木や石炭のような従来の燃料の代替品となる。そのほか、イケアの家具で使われているような稲藁を原料とした板も製造している。石炭より環境に優しいバイオ炭も作り、土壌養分に活用する。

――農家をどう巻き込んでいるのか。

政府や自治体は藁を燃やさず畑に戻すよう農家に指導しているが、農家は嫌がる。次の作付けの邪魔になるし、害虫が増えるからだ。どうにかしたいなら政府が藁を引き取れと農家は言うが、保管できる場所はない。

そこで私たちは農家から藁を買い取り、農家が臨時収入を得られるだけでなく、産業向けに高付加価値の製品を作る仕組みを考えた。藁を収集する機械類を農家が購入するための支援も行っている。

――提携する農家をどうやって決めているのか。

NASAの衛星データを使って、藁が燃やされている場所を特定した後、機械学習アルゴリズムで、どの農地で藁が繰り返し焼却されているかを判断する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中